カタールW杯の優勝候補が恐れる「ジャアント・キラー」デンマーク代表。世界の舞台で番狂わせを起こし続けた歴史とその理由 (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

強い相手に強い体質

 どうもスペインとは相性が悪いらしく、1984年の欧州選手権ではPK戦で負け、このワールドカップでもラウンド16で対戦して、先制しながら1-5の完敗を喫した。ちなみに1994年アメリカW杯の予選でもスペインに敗れて出場権を失っている。

 ただ、グループリーグではこの大会で準優勝の西ドイツを下していて、すでにジャイアント・キラーの片鱗は見せていた。ダニッシュ・ダイナマイトの黄金時代が過ぎてからのデンマークはヨーロッパの中堅国に定着しているが、強い者には強いのはもはや伝統と言っていいかもしれない。

 1998年フランスW杯では優勝候補だったナイジェリアに勝ち、準々決勝でもブラジルを相手に一歩も引かずに2-3の激闘を演じた。2012年のユーロはグループリーグ敗退ながらオランダに勝っている。2018年ロシアW杯でも準優勝するクロアチアにPK戦まで粘った。ユーロ2020ではベスト4。UEFAネーションズリーグ2022-23は惜しくもベスト4入りを逃したがフランスに2勝している。

 20世紀初頭の五輪で銀メダルを2度獲得したデンマークだが、それ以降は表舞台での活躍はなく、ダニッシュ・ダイマイトの出現まではほぼ忘れられた存在だった。

 ピオンテク監督が率いた当時、国内リーグはまだセミプロ。シーズンオフにはリゾート地のバイトで稼ぐ選手もいれば、大工など定職を持つ選手もいた。ただ、代表選手は大半がドイツやイタリアなどで活躍しているプロで、たとえばレアビーはバイエルン、ミカエル・ラウドルップはラツィオやユベントス、イェスパー・オルセンがアヤックスでプレーしていた。

 彼らもスタートは国内のセミプロからであり、一般社会で働いた経験を持っていた。もしかしたら、それがジャイアント・キラーの基盤としてあるのかもしれない。大人なのだ。

 世界幸福度ランキングで毎度上位につけるデンマークは、個人が尊重され、合理的で、ジョークが辛辣だと言われている。リラックスする「ヒュッゲ」と呼ばれる習慣は世界的に紹介されて有名だ。

 ユニクロや無印良品が大好きらしい。余計な見栄を張らない、質実剛健。イメージにすぎないが何となく堅実でクールな感じである。自立している。その内に秘めた強さ、物おじしない性格が、強豪国と対戦する時に表れているような気がする。

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