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絶望した時、奇跡は起きた。
94年W杯で見たロベルト・バッジョの神髄 (6ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • photo by AFLO


 ブラジルとの決勝ではご存知のとおりの結末を迎えるが、この大会のバッジョはファンタジスタというよりも、強大な敵にひとりで立ち向かう「孤高の戦士」だった。何度も窮地を救い、最後の最後に、力尽きて倒れてしまう。華麗なプレーの陰にある、その悲劇性こそがバッジョという選手をより神格化させたことは間違いない。

 バッジョのプレーに魅了されてから8年後、D誌編集部に潜り込み、サッカーを書くことを生業とするようになった。この職業を目指したのは、1994年の夏に見たバッジョの姿に心を揺さぶられたからだ。プレーの裏側にある人間味にこそ、サッカーの魅力が詰まっている。それをバッジョが教えてくれた気がするからだ。

 心残りは、2004年に引退したバッジョのプレーを、結局一度も生で見る機会がなかったこと。こうして思い出話を書くことはできるが、生身のファンタジスタには、ついに触れることはできなかった。

 その後、ロナウド、ジダン、メッシ、クリロナと、時代ごとに世界を席巻するスーパースターたちが現れている。獲得タイトルやゴール数といった実績では、彼らのほうが上かもしれない。それでもバッジョを超える選手は、おそらく今後も現れることはないだろう。少なくとも、僕の中には。

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