「安くても勝てます」。弱小クラブのエンポリがセリエAで大健闘

  • 宮崎隆司●取材・文 text by Miyazaki Takashi photo by Getty Images

 こう言っては誠に失礼だが、実に貧相な、そこに豪華さや格式といった類の印象は微塵もない、それどころか「道具倉庫」といった趣の雑然とした一角にある一枚の防火扉――。

 その扉を開けると、その瞬間、行き交う選手たちの大きな笑い声や、陽気だが完全に音程を外しまくった雄叫びみたいな歌声に包まれる。

 するとそこへ、門番役のおじいさんが来ては、こちらの右手を握り潰すかのような強烈な握手と満面の笑みで迎え入れてくれる。そして、決まって次のような言葉を交わす。

「取材、今日もOKですか?」
「なんでダメなんだ?」

 これがエンポリのスタジアム、「スタディオ・カルロ・カステッラーニ」だ(16800人収容。カルロ・カステッラーニは、1920年から30年代にエンポリで活躍したFW。1944年にマウトハウゼン強制収容所で死去した)。

 その一角に同クラブの"クラブハウス"の入り口があるのだが、これがセリエAのクラブとはとても思えないほど、なんとも気楽で温かい雰囲気に満ちあふれている。

 そして、その質素なスタジアムに足を踏み入れ、蝶番(ちょうつがい)の壊れかけたアルミの扉を開けてピッチへ降り、町の人たちが思い思いに走っている憩いの場と化した陸上トラックの脇を歩くと、すぐそこにエンポリのトップチームの練習場がある。

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