【イングランド】選手はプレイしているクラブを愛しているのか
記者会見に臨むアレックス・ファーガソン。人気チームの監督の発言は世界中に報道される(photo by Getty Images)【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】僕のサッカーへの恋が冷めた理由~後編
フットボールそのものより好きではなくなったのが、その周辺にまとわりついているカルチャーだ。歴史や数えきれないエピソード、ファンやメディアが発する言葉などの集積だ。
ユーモアのかけらもない大げさな言葉がひっきりなしに飛び交うのには、まったくうんざりする。マンチェスター・ユナイテッドの監督アレックス・ファーガソンがレフェリーについて何か言うと、そのたびに世界的なニュースとして扱われる(たとえば、アフリカのマリ共和国の内戦より大きなニュースになる)。昨年のユーロ2012では、開催国のひとつウクライナのドネツクで行なわれたイングランド代表のどうでもいい記者会見に、500人の記者が押し寄せた。メディアは大事なニュースを伝えるための人手が足りていないというのに。
そして怒りがある。PKを与えたレフェリーへの怒り、移籍した選手への怒り。「hate(憎む)」という言葉があまりに多く使われるので(たとえば「I hate Manchester United!」とか)、フットボールをめぐる語りはファシストのプロパガンダのように聞こえることがある。
こうしたヒステリーを抑えるひとつの手は、選手はプレイしているクラブを愛しているという甘ったるいイメージを、ファンやメディアが捨て去ることだろう。選手はそんなことを思っていない。彼らの言葉に耳を傾ければわかる。選手たちは自分のことを、「キャリア」を持つ「プロフェッショナル」と表現する。
フットボールは仕事だ。給料もいいし、わりに楽しい仕事だが、従業員は働いている組織を愛しているわけではない。マンチェスター・ユナイテッドのサポーターである僕の友人が、ユナイテッドで長くプレイしているポール・スコールズやライアン・ギグスはクラブを愛しているのだろうと言ったことがある。僕は彼に、自分の働いている銀行を愛しているかと聞いた。まさか、と彼は答えた。スコールズもギグスも、ユナイテッドを愛しているわけではない。組織と従業員が幸せな関係を築いているだけの話だ。
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