「多摩川クラシコ」は成功 だが地元民だけが楽しむお祭りと化したJリーグに未来はあるか

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

連載第1回
杉山茂樹の「看過できない」

 再開したJリーグに多くのファンが詰めかけた。だがその陰で、見すごすことのできない現象が起きている――さまざまな事象に問題提起をしていく連載、第1弾。

 味の素スタジアムで行なわれたFC東京対川崎フロンターレ戦。19時キックオフのナイトゲームだというのに気温は30度を超え、記者席に座っているだけでも汗がじんわりにじみ出す、不快指数の高いなかで試合は始まった。

 J1リーグ7位(FC東京)対12位(川崎)の一戦に足を運ぶより、日本人選手が好成績を収めるパリオリンピックの最終日の模様を、冷房の効いた自宅のリビングでテレビ観戦するほうが快適そうにも見えるが、スタンドは3万7452人の観衆で、ほぼ満杯に膨れあがっていた。

 25万8151人とは、この第26節に行なわれたJ1リーグ10試合に集まった観客の総数だ。1試合平均2万5815人。これは、欧州各国リーグの状況に照らせば、5番目のリーグ・アン(フランス)を上回る数字になる。

試合は川﨑フロンターレがFC東京を3-0で下した photo by Yamazoe Toshio試合は川﨑フロンターレがFC東京を3-0で下した photo by Yamazoe Toshioこの記事に関連する写真を見る その昔、欧州でボスマン判決の内容が施行された1996-97シーズンだったと記憶する。当時、レアル・マドリード所属のロベルト・カルロスは、ブラジル代表の仲間たちがプレーするJリーグについて、「選択肢として4、5番手のリーグだ」と筆者のインタビューに答えている。

 それはすなわちJリーグの世界的な市場価値を意味するが、現在のJリーグの市場価値は4、5番手レベルにはまったくない。10位にさえ届いていないのではないか。

 欧州でプレーする日本人選手はいまや優に100人を超える。Jリーグで少し活躍すれば......、あるいは高校、大学からJリーグを飛び越えて......欧州に渡る日本人選手は増えるばかりである。他方、Jリーグにやってくる外国人選手の質は低下の一途を辿る。外国人枠を満たせずにいるクラブが多くを占めるという、それ以前の問題も目に留まる。

 優れた選手が相対的に減り、市場価値も大きく低下したJリーグ。にもかかわらず、スタンドは活況を呈している。Jリーグの1996年シーズンの1試合平均の観客動員数を調べれば13353人で、1997年は10131人だ。当時と比較すると、現在の状況は倍増に値する。

1 / 4

著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

フォトギャラリーを見る

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る