「中田英寿も本田圭佑も強かった」清水エスパルス・秋葉忠宏監督が目指す超攻撃的なサッカーに不可欠なもの
昨シーズン、4月に清水エスパルスの監督に就任し、チームを劇的に復活させた秋葉忠宏。最終的にJ2リーグ2位以内に入れず、J1昇格プレーオフでは東京ヴェルディに敗れてJ1復帰は果たせなかったが、「エスパルスはJ2にいるようなチームではない」と常々語る。そのことを証明すべく、昨年以上に熱くチームを牽引する秋葉監督に指導者の哲学とチームの現状について話を聞いた。
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――秋葉監督の指導者としての哲学を教えてください。
「指導って、自分のプレイヤーとしての経験や人生を生きてきた経験など、その人の生き様が出ると思っているんです。僕は(イビチャ・)オシムさんや岡田(武史)さんのように賢く、崇高なことは言えないですけど、自分らしく情熱を持って、自分の言葉で選手に熱く真正面から伝えていく。そうしてコミュニケーションを取ってやっていくことが一番大事なことであり、自分のスタイルだと思っています」
――コミュニケーションを取りながらの指導で不可欠な要素はありますか。
「嘘をつかないことですね。ひとつ、嘘をつくと、それに合わせるために嘘を重ねて、つじつまが合わなくなってきます。もうひとつは、幅を持たせるということです。
サッカーは自分で考え、判断しないといけないグレーゾーンが多いスポーツだと思うんです。そこで僕が白黒ハッキリさせてしまうと、その選手の良さや動きが縛られてしまうので、良さが出にくくなってしまうんです。ピッチ上でそれは避けたいので、すべてを決めすぎず、選手のセンスを活かすことが、僕は監督にとって必要な要素だと思います」
――100%のうち、選手個々の判断でのプレーをどのくらい認めているのですか。
「僕は、60%はチームとしての方向性を守ってもらい、40%は個人戦術やアイデアを自由に活かしてほしいと言っています。この40%の自分の世界はめちゃくちゃ大事で、僕が『これとこれをやって』と言うと、今の選手は素直で真面目なので、それしかやらなくなることが多いんです。だから、40%を許すだけじゃなく、できる環境も大事だと思っていますし、エスパルスはそれができるチームになっています」
秋葉監督がグレーゾーンを否定せず、個性を活かすことを重視しているのは、現役時代に一緒にプレーした選手たちの影響も大きい。
――監督によっては、自分の型にはめていくタイプもいます。
「いやーそれはダメですね(苦笑)。それは僕が一番嫌いなタイプです。『こうだよ』って言ってハメるのは簡単なんですよ。でも、それじゃ選手が成長しないんです。
僕が現役時代にアトランタ五輪(1996年)で一緒にプレーした前園(真聖)、城(彰二)、中田ヒデ(英寿)は、自分の個を活かしてナンボの選手じゃないですか。実際、そういう選手が局面を打開して、大きな舞台で勝利に繋がるプレーをするんですよ。
それに僕は、自分が想像する以上の選手になってほしいんです。『えっ、おまえ、そんなプレーもできるの?』『そんな考え方、持っていたんだ』とか、そういうので僕を驚かせてほしいんです」
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著者プロフィール
佐藤 俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。