元鹿島FW田代有三はオーストラリアで引退後になぜ現地で起業? 日豪「いいとこどり」とは

  • 石井和裕●取材・文 text by Ishii Kazuhiro
  • photo by Ishii Kazuhiro

【コミュニケーション能力を生かす】

「僕はプロサッカー選手のなかではうまいほうじゃないです。鹿島アントラーズに加入した時に、どの選手もうまいので『不満を漏らしていたら僕にはパスが来ない』とわかりました。僕の特徴を理解してもらい、生かしてもらわなきゃいけない。だから、いかに周りを盛り上げ、気持ちよくサッカーをしてもらうかを考えました。

 欲しいパスを要求するにしても言い方一つで、相手の受け取り方が全く変わるから、要は、もう褒めまくっていましたよ。それから、アシストしてくれた選手に、ちゃんと感謝の気持ちを示せる選手にならなきゃいけない。ずっとそれを考えながらプレーしてきました」

鹿島でプレーしていたころの田代さん photo by Getty Images鹿島でプレーしていたころの田代さん photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る 選手生活を引退しセカンドビジネスに挑戦するにあたっても、そうしたコミュニケーションの姿勢は変わらなかった。現地で暮らす日本人のビジネスパーソンとの親交を深め、プレゼンテーション資料の作り方から事業の計画まで、たくさんのことを教わった。ビジネスの進め方について、相談できる相手が何人もいるという。

 そして、最近は、田代さんが多くの日本人を自分のビジネス・パートナーに引き入れ、彼らに活躍できる舞台を提供している。サッカースクールのコーチは13人。その多くはJリーグ、海外クラブ、なでしこリーグなどで、出場機会を得られない厳しい世界を味わった経験を持つ。

「僕が『一緒にやろうよ』と誘っています」

 田中景子さんは田代さんの下、MATE FCで子どもたちにサッカーを指導しているコーチの一人。日本では東京電力女子サッカー部マリーゼ(なでしこリーグ)でプレーし、東日本大震災により所属チームが活動停止になった経験を持つ。

「田代さんは憧れの選手でした。とてもフレンドリーな方で、今、一緒に仕事をできているのは私にとって最高の環境です。田代さんの方針で、スクール生には挨拶や礼儀、日本の心を忘れないことも指導しています。でも、同時にオーストラリアの良いところも生かしています。スクール生からコーチに対して意見してもらうことは歓迎。意見にはコーチが回答するようにしています」

 そして今年、田代さんは鹿島のアカデミーをシドニーに招いた。アカデミーのスタッフにはかつてのチームメイトである小笠原満男テクニカルアドバイザー、柳沢敦監督、曽ヶ端準GKコーチがいる。アカデミーの選手たちにも、シドニーでサッカーを楽しむMATE FCの子どもたちと親御さんにも忘れられない体験を提供したに違いない。

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