イニエスタは時間と空間を操る。
手品のような妙技にスタンドがどよめき (2ページ目)
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攻めながら一発でやられる、というのは神戸の負けパターンのひとつと言える。
ただ、イニエスタはサッカーの醍醐味を示していた。
5分、相手ボールを奪った後のショートカウンターだった。イニエスタは、前に出ていたGKの位置を視野に入れ、計算し、センターサークル付近から頭上を抜くシュートを選択している。わずかにバーの上だったが、ビジョンと発想と技術のどれが欠けても成立しないプレーだ。
堅く城門を閉ざして守るガンバに対し、チームは攻めあぐねていたが、イニエスタは何度も容易に崩している。
18分、イニエスタは山口蛍とのパス交換でコースを作り、ボックス内の小川慶治朗に線を引くようなパスを出した。そこには「前を向いて受けろ」というメッセージが込められていたが、それは伝わらない。その直後には、古橋とのワンツーだけで軽々と防御線を越え、右サイドの裏に走るサイドバックの藤谷壮にピンポイントで合わせている。この妙技には、スタンドでどよめきが起こった。まるで手品のように、なにもないはずのところに何かを生み出せるのだ。
単純なワンツーが、これほど有効なものなのか。
そして、イニエスタのプレーが一気に異次元に入っていくのは、62分に1点をリードされた後だろう。しつこくマークする敵を子供扱い。フリックパスやターンだけで先手を取り、目も体も頭もついていかせない。まるでコーンを相手にプレーしているような落ち着きだった。相手はたまらずにファウルに及ぶしかない。
72分、強烈なプレスから奪い返したボールを、左寄りで受けたイニエスタは、さらりと完璧なコントロールを見せる。そして前線でフリーの田中順也を照準に捉え、鮮やかにパスを通した。しかし左足に持ち替えて放ったシュートは、やはり決まらない。
84分にも、中盤でボールを受けたイニエスタは、右サイドバックと阿吽の呼吸を見せる。猛然と走り出した先に、コースや強度が精緻にプログラミングされたようなパス。折り返されるが、無情にも合わなかった。
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