60歳ラモスの怒声とパス。永井秀樹が引退試合で伝えたかったこと (5ページ目)

  • 会津泰成●文・撮影 text&photo by Aizu Yasunari

「黄金時代」のヴェルディの攻撃がよみがえったかのようだった。このとき、西が丘サッカー場はこの日一番の盛り上がりを見せた。

 ゴールを決めた瞬間、永井の脳裏には昨季のこと、2016年6月8日のFC岐阜戦が頭に浮かんだ。岐阜の監督はラモス。会場は奇しくもこの日と同じ西が丘だった。

「ケガをして開幕に間に合わず、シーズンスタートから3カ月かかって、ようやく途中交代で試合に出場したあの日、実は(この日のゴールシーンと)まったく同じシーンがあった。でも、あのときはパスの出し手はラモスさんではなく、井上潮音だった。潮音のパスは自分のイメージよりも、ほんの少しボールが浮いていてコントロールが難しく、決定機寸前まではいったけど、ゴールを奪うことはできなかった。

 それが今回は、パスの出し手がラモスさん。ラモスさんは自分が一番コントロールしやすい位置、コントロールしやすい強さで、絶妙なボールを出してくれた。『この違いだな』と思って、すごく感慨深かった」

 無論、20歳の井上と、日本代表でも「10番」を背負い、圧倒的なカリスマ性を持ったラモス氏とを比較するのは酷な話だ。だが反面、永井のこの感想は井上に対する期待でもあるのだろう。将来のヴェルディを担う彼が、ラモスからのパスを決めた永井の姿を見て、何かつかんでくれることを願っているに違いない。

 試合終了後のセレモニー。永井は場内を一周して、観戦に訪れたすべての"サッカーファミリー"にお礼の気持ちを伝えた。そして最後に、ヴェルディサポーターの待つスタンド前で足を止めた。

 サポーターから「ひと言、お願いします」と声をかけられると、永井は笑顔で拡声器を受け取ってこう語った。

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