川崎F・中村憲剛が奪還を誓う「2007年の忘れ物」

  • 飯尾篤史●文 text by Iio Atsushi
  • 山添敏央●撮影 photo by Yamazoe Toshio

 川崎フロンターレひと筋で現役をまっとうし、昨シーズン限りでスパイクを脱いだ伊藤宏樹がこんなことを言っていた。

「悔いがあるとすれば、2007年にタイトルを獲れなかったこと。あのとき、どれかひとつでもタイトルを獲得していれば、その後、あとひとつ、ふたつのタイトルを獲れていたかもしれない。あの年に"大きな忘れ物"をしたことを、ずっと引きずっていた」

 川崎Fにとっての2007年――。それは、初めて出場したアジアチャンピオンズリーグ(ACL)でグループステージを突破し、ナビスコカップでも決勝に進出。リーグ戦でも上位争いを演じて、シーズン途中まで天皇杯を含めて4冠の可能性があったシーズンだった。

 関塚隆監督に率いられて4年目。J1で3年目を迎えたチームは成熟し、FWジュニーニョやDFの伊藤、寺田周平、箕輪義信らベテラン勢は脂の乗った時期で、MF中村憲剛やMF谷口博之ら中堅は伸び盛り――。初タイトル獲得に向け、機は熟していた。が、ACLはベスト8、ナビスコカップは準優勝、リーグ戦は5位、天皇杯はベスト4に終わった。

 このとき優勝を逃した川崎Fは、2008年、2009年と2年連続でリーグ2位、2009年ナビスコカップ準優勝などチャンスをあと一歩で逃して、いまだタイトル獲得を意味する星がユニホームの胸にはひとつもつけられていない。

今季、悲願のタイトル奪取へ手応えを感じている中村憲剛(右)。左は浦和レッズの柏木陽介。今季、悲願のタイトル奪取へ手応えを感じている中村憲剛(右)。左は浦和レッズの柏木陽介。 だが、昨季の最終節でリーグ3位に浮上し、2010年以来4年ぶりのACL出場を決めた今季、2007年の"大きな忘れ物"を取り返す、最大のチャンスがめぐってきている。

「チームの雰囲気や置かれている状況が、2007年とすごく似ている」

 そう語るのは、あれから7年が経ち、キャプテンとしてチームを引っ張る中村だ。

「ACLを初めて経験する選手が多いから、みんなのモチベーションがすごく高いし、僕自身、久しぶりだからワクワクしている。それに、風間(ハ宏)監督が就任して3年目。あのときと同じように、チームは成熟の時期を迎えている」

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