2年ぶりの一軍登板、ヤクルト奥川恭伸を戸田で見守ったコーチたちの回想録 「途中で心が折れかけて...」
ヤクルト・奥川恭伸の2年ぶりの一軍登板が目前に迫ってきた。奥川は高卒2年目の2021年に9勝をマークし、日本シリーズでも好投。新エース誕生の期待が高まったが、翌年のシーズン初登板で右ヒジ痛を発症。昨年はリハビリ後、一軍復帰も見えてきた7月に左足首を骨折。そして今年2月は一軍キャンプ完走を前にして腰痛により無念の離脱。
「僕ひとりだけでは心が折れていたかもしれません」
奥川がそう語ったように、二軍の投手コーチたちは長く苦しいリハビリ期間を支え続けてきた。そんなコーチたちに、二軍本拠地・埼玉県の戸田で見守ってきた奥川の姿と、これからの期待について語ってもらった。
6月14日のオリックス戦で2年ぶりの一軍マウンドに上がる奥川恭伸 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る
【奥川恭伸が見せた意外な一面】
松岡健一コーチは奥川について「賢い選手ですし、なんでも吸収するし、感覚が研ぎ澄まされている。アドバイスしやすかった」と語る。
「体の扱い方がうまいから、自分の発想を試せる。その発想も面白い感覚を持っていて、それが飛び抜けているんです。若い選手の多くは、自分の体の扱い方への理解が浅いなかで動いているけど、奥川はベテラン選手かというくらいうまい。実際、自分ら(コーチ)と同じくらいに言語化できる。そこがすごいですよね」
松岡コーチにとって、今年5月17日の日本ハム戦(鎌ヶ谷)は強く印象に残っているという。奥川は5回を投げ、3本塁打を含む8安打、7失点と大乱調。マウンド上では信じられないくらいイライラし、取り乱していた。
「内容も結果も、あそこまで崩れるところを見たことがなかったですし、いい意味で面白かったですね(笑)。この2年間のケガはありましたけど、それまではプレーヤーとして順風満帆にきていたわけじゃないですか。それがあの試合では、マウンドで怒ったり、投げやりになったり、いつもさわやかな奥川がこんな闘争心を秘めていたんだと。打たれたくないという感情を感じることができました。だけどそのなかで、なんとかあがいて修正しようという気持ちが出ていた。で、すごいのは次にゲームで修正してくることなんです。自分で次の策を練って、見つけられるのもすごいところです」
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著者プロフィール
島村誠也 (しまむら・せいや)
1967年生まれ。21歳の時に『週刊プレイボーイ』編集部のフリーライター見習いに。1991年に映画『フィールド・オブ・ドリームス』の舞台となった野球場を取材。原作者W・P・キンセラ氏(故人)の言葉「野球場のホームプレートに立ってファウルラインを永遠に延長していくと、世界のほとんどが入ってしまう。そんな神話的レベルの虚構の世界を見せてくれるのが野球なんだ」は宝物となった。以降、2000年代前半まで、メジャーのスプリングトレーニング、公式戦、オールスター、ワールドシリーズを現地取材。現在は『web Sportiva』でヤクルトを中心に取材を続けている。