「選手に自慢できるのは数字を残す過程で犯してきた失敗」石井琢朗が語るコーチとしての特性

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi
  • photo by Kyodo News

 いずれ石井琢朗はベイスターズに戻ってくる、と確信したのは2年前のことだ。

 2019年のシーズン後、ある取材でヤクルトのコーチを辞めたばかりの石井に会う機会があった。その時、DeNAファン向けにビデオメッセージを収録している場面に立ちあったのだが、石井は次のようにコメントを残した。

「ファンのみなさんがあと押ししてくれるなかで、また一緒に戦える日を夢見て......」

 よどみなく出てきた言葉の重さに鳥肌が立った。石井は必ず帰るつもりだ----。

森敬斗(写真左)を指導する石井琢朗コーチ森敬斗(写真左)を指導する石井琢朗コーチこの記事に関連する写真を見る 今からさかのぼること13年前、石井は2008年シーズン終盤に球団から引退を勧告された。だが現役にこだわった石井は、入団以来約20年間過ごしたベイスターズと袂を分かち、ベテランの力を必要としていた広島へと移籍した。

 1998年の日本一に貢献したリードオフマンに加え、2000本安打を達成した球団史上ナンバーワンといっても過言ではない遊撃手。誰からも愛された選手とのしこりを残した、悲しい別れ。だが、ファンは未練を断ち切ることができず、いつも石井の動向を気にしていた。

 2012年に現役引退をすると、その後、広島のコーチに就任しリーグ3連覇。黄金時代の礎を築くことに貢献。名コーチとして球界に名を馳せると、2018年からはヤクルト、2020年からは巨人で指導を行なった。

 ベイスターズを離れた経緯を考えれば復帰について懐疑的な声もあったが、冒頭の2年前の様子を見るかぎり、戻る意思があることは明白だった。あとは球団の選択とタイミングだけだったわけだ。

 そして、ともに日本一を勝ち取った三浦大輔監督の2年目、満を持して石井は14年ぶりにチームに帰ってきた。

 11月15日、ファーム施設のDOCKで行なわれていた秋季トレーニングに、石井は視察に訪れた。ブルーのウェアを身にまとい、選手や関係者の前に出て挨拶をする。

「このたび、みなさんと同じユニフォームを着て一緒に戦うことになりました。来シーズン、ここにいるみんなで優勝できるように頑張っていきましょう。よろしくお願いします!」

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