DeNA牧秀悟が新人王に向け絶好調。打撃スタイルと菅野・戸郷の衝撃を語る (3ページ目)

  • 菊地高弘●取材・文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

 とはいえ、開幕からそんなポジティブ思考を持てたわけではない。3月26日の巨人との開幕戦では、菅野智之に抑え込まれ4打数0安打。翌27日も戸郷翔征に2三振を奪われた。

「菅野投手は日本を代表するピッチャーだけあって、1球として甘い球がなくて、ボール球を振らされました。打ちにいっても、詰まらされてファウルになってしまう。戸郷投手はボールが強くて、ピンチになればなるほど変化球の精度が格段に上がりました」

 一軍で結果を残す投手と対峙し、レベルの高さを痛感した。初打席から8打席連続でヒットが出ず、牧は「結構焦っていました」と振り返る。

 だが、27日の巨人戦の最終打席で、風向きは変わった。左の変則サイドスロー・高梨雄平が投じたクロスファイアーに詰まらされたものの、打球はふらふらとファースト後方に上がる小フライに。打った瞬間は「ファーストフライだ」と落胆した牧だったが、打球は意外に伸び、ゼラス・ウィーラーの差し出したミットの先をかすめてポトリと落ちた。初めてのヒットランプが灯った瞬間、牧は胸をなでおろした。

「記録はヒットだったので、うれしかったですね。このヒットで、次の日から乗っていけたところはあります」

 牧という打者の最大の特徴は、勝負強さにある。4月19日現在、得点圏打率は.421。大学時代から「ランナーを還すのが自分の仕事」と自信を持っていた。

 野球を始めた小学校から高校までは、自分がそれほど勝負強いと感じたことはなかったという。なぜ、牧は勝負強い打者になれたのだろうか。チャンスの場面でどんなことを考えているのかと聞くと、少し考え込んでからこう答えた。

「自分がチャンスということは、相手にとってはピンチということ。早く2ストライクに追い込みたい心理があるはずなので、1球は甘いボールが来るんじゃないかと。その1球を逃さずに、とらえてやろうと考えています」

 打席に入れば神経が研ぎ澄まされ、一切の雑音がシャットアウトされるという打者の話を聞いたことがある。だが、牧の場合は逆だ。チャンスになればなるほど、スタジアムの歓声が耳に入ってくる。

「スタンドからの拍手もしっかりと聞こえていますよ。その拍手で体から力がみなぎってくる。いいアドレナリンが出て、打席に入れるんです」

 ということは、ホーム球場でのチャンスのほうが力はみなぎってくるのか。そう尋ねると、牧は「間違いないです」と笑った。

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