【イップスの深層】森大輔が引退後に初めて味わった一軍マウンドの感慨

  • 菊池高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by ©Yokohama DeNA Baystars

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連載第22回 イップスの深層~恐怖のイップスに抗い続けた男たち

証言者・森大輔(6)

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「そうですか、森はそんなことを言っていたんですか......」

 重度のイップスに苦しみ、横浜ベイスターズをわずか3年で解雇された幻の逸材・森大輔。現在は郷里の石川県七尾市で医療機器メーカーに勤め、充実した毎日を過ごしている森だが、心にある引っかかりを残していた。それは、高校時代から熱心に追いかけてくれたスカウトの高浦美佐緒(みさお)のことだった。

 森は「今でも高浦さんのお名前を見ただけで、申し訳ない思いが湧き上がってくる」と言うほど、罪悪感に苛まれている。自由獲得枠という高い評価での入団だっただけに、担当スカウトである高浦は立場をなくしたに違いない......という思いがあった。

2015年に始球式でハマスタのマウンドに上がった森大輔2015年に始球式でハマスタのマウンドに上がった森大輔 森がそんな心情を抱いていることを伝えると、高浦は冒頭のように静かにつぶやき、こう続けた。

「むしろ、森には申し訳ないことをしました。やはり彼は高校からすぐプロに行くべきだったのでしょう。当時は逆指名制度があって、そういう時代だったというのもありますが、森はその被害者だったのかもしれません」

 現在、高浦はプロ球界を離れ、高校・大学の現場で指導にあたっている。横浜のスカウト時代は、森を担当したことで球団の中枢から「高い契約金を払ったのに」と皮肉混じりに非難されたこともあったという。だが、高浦は本音を押し殺しつつも、内心は「最終的に獲ろうと決めたのは上の人間じゃないか」と思っていた。森の近況を知った高浦は、こんな感想を漏らした。

「あいつが元気でやってくれているなら、私はそれで十分です。本当にホッとしました......」

 森には、高浦とのこんな思い出がある。社会人2年目のある日、高浦から鉄板焼き屋に呼び出されると、そこには女子フィギュアスケートの選手が同席していた。高浦は2人に言った。

「これから2人はアスリートとして日本を引っ張っていくんだから、今のうちに出会っておいたほうがいい」

 そのフィギュアスケート選手の名前は、荒川静香といった。当時、全国的な知名度があったわけではない。森はその後、荒川と連絡を取り合うようになった。

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