西武・秋山翔吾は愚直に打撃を究める「修行僧」か!? (4ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 もちろん、技術的にも一流の資質があった。たとえば、ティーバッティング。当時の八戸大は地面から斜めに踏み板を敷き、その上に立ってボールを叩く独特のティーバッティングがあった。わざとアンバランスな環境を作り、ボディーバランスに気をつかいながらフルスイングでボールを叩く練習なのだが、これが難しい。ほとんどの選手がバランスを崩し、なかには転倒したりする者もいるのだが、秋山だけはすぐに要領をつかみ、難なく打ちこなしていた。

 咄嗟(とっさ)にどんな打ち方でもできる。バランスを崩されてもしっかり振り抜ける技術があった。これは間違いなく、秋山のバッティングの特長のひとつであろう。

 こんなことがあった。6月24日、西武プリンスドームでのソフトバンク戦でのことだ。スタンリッジが投じた内角のストレートをあわやホームランかという打球をライトポール際に打ち込んだ。結果はファウルとなったのだが、決して甘くはないインコースの球を、両ヒジをたたみ込んで、全身をコマのようにクルッと回転させてさばいたのだ。これぞ技あり、見事なスイングだと思った。ところが、翌日の新聞に載っていた彼のコメントを聞いて驚いた。

「あれは自分のスイングじゃない。あの打ち方を求めたら、自分のバッティングが崩れてしまう」

 たしかに、体が勝手に反応したスイングだったに違いない。もう一度、同じ打ち方をしろと言われても、簡単にできるものではない。だからこそ、秋山は口にしたのだ。つまり、偶然を信じない。根拠のある結果しか信じないのが、秋山の本当のスタイルなのだ。

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