【プロ野球】中村紀洋、戦力外から掴んだ8年ぶりの球宴に懸ける思い (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Nikkan sports

 そして昨年、「育成でもいいから野球を続けたい」とひとりで練習を続けたが、4月、5月と時は過ぎ、さすがにここまでか......と思われた。しかし6月、横浜から獲得のオファーが届き、首の皮一枚で野球人生がつながった。それでも期待された一発は、交流戦でソフトバンクの杉内俊哉(現・巨人)から放った代打アーチの1本のみで、さすがに力の衰えを感じさせた。しかし、本人の思いだけは違っていた。

「『使ってさえもらえれば、もっとやれる』と、いつも言っていました」

 そう語ったのは、息子のたび重なる挑戦を見守り続けてきた父の洋二氏だ。その言葉通り、今シーズンは中畑新体制の下でスタメン出場の機会を掴むと、7月19日現在、打率.295(リーグ3位)、8本塁打(リーグ9位)、42打点(リーグ4位)と結果を残し、得点圏打率.352はリーグトップ。4月15日の巨人戦では西村健太朗から通算10本目となるサヨナラホームランを放ち、これは清原和博の12本、野村克也の11本に続く歴代3位。持ち前の勝負強さも健在だ。

 何度も崖っぷちに立たされながら、「絶対、誰かが見てくれているはず」とバットを置くことはしなかった。そんな息子について、洋二氏は次のように語る。

「とにかくアイツは野球が大好きなんです。自分には野球しかないとわかっているから、簡単に辞めるわけにはいかない。本当にその思いひとつでここまでやってきたんだと思います」

 子どもの頃、テレビを見る時も手はバットを握っているか、グラブがはめられていた。寝る時も、枕元にバットを置いているから、朝起きると「こんなところに置いとったら危ないやろ!」と母親によく怒られた。しかし、翌日も翌々日も同じことが続き、やがて誰も何も言わなくなった。

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