検索

【MLB日本人選手列伝】田口壮:ワールドシリーズ優勝を2度経験した献身的ロールプレーヤーが放った "ベーブ・ルース"級の輝き (2ページ目)

  • 文/杉浦大介 text by Sugiura Daisuke

【器用さと献身的姿勢が名門カージナルスにフィット】

 もっとも、リーグ屈指の名門チームであるカージナルスで結局6シーズンも過ごすことになった理由は、このように数字が上質だったからではないのだろう。その器用さと献身的姿勢、"For the team"の精神は知将トニー・ラルーサが率いた常勝チームにきれいにフィットした。在籍期間を通じてラルーサ監督は田口を重宝し、その貢献を絶賛するコメントを残し続けた。"アメリカで最も見る目がある"と称されるセントルイスのファンも田口の働きをリスペクトし、温かい声援を送り続けた。

「田口を獲得した理由にパワーは含まれていなかった。バントを決め、出塁してくれれば十分だと思っていた。それがまさかホームランとは」

 冒頭で述べた2006年のナ・リーグ優勝決定シリーズ第2戦後、ウォルト・ジョケッティGMが述べたそんな言葉も象徴的だった。チーム内外から愛されたロールプレーヤーが一刹那、強烈な輝きを放ち、チームを救ったからこそ、あの秋の活躍はドラマチックだったのである。

 2008年に移籍したフィラデルフィア・フィリーズでは、とにかく長打力を重視するチャーリー・マニエル監督のスタイルにフィットしなかった印象がある。特に夏場以降は打撃不振に陥り、気の荒いフィラデルフィアのファンから罵声(ばせい)を浴びることも少なくなかった。それでも「せっかちな東海岸の気質にもやっと慣れてきました」と爽やかな笑顔で語り、プレーオフを勝ち抜いたチームでロースターに残り続けたことはいかにも田口らしかったのかもしれない。

 フィリーズはこの年、ワールドシリーズを制し、田口は2個目の優勝リングをゲットした。タンパベイ・レイズとのワールドシリーズでは出場機会はゼロだったが、それでも毎試合ごとに丁寧に日本メディアの質問に答える姿が印象的だった。

 こんな格好よさもあるのだろう。自身の仕事を黙々とこなしたベテラン外野手は、生き馬の目を抜くようなメジャーリーグでも所属するチームが常に優勝を争う「勝利の使者」となった。これからも多くの日本人選手が海を渡ってくるはずだが、田口のような形で成功を手にするプレーヤーはなかなか現れないかもしれない。

【Profile】本名:田口壮(たぐち・そう)/1969年7月2日、福岡県生まれ。西宮北高(兵庫)―関西学院大―1991年NPBドラフト1位(オリックス)。2002年にフリーエージェントで、セントルイス・カージナルスと契約。メジャーリーグから日本球界に復帰した後はオリックスで2シーズンプレーした。
●NPB所属歴(12年):オリックス(1992〜2001)―オリックス(2010〜11)
●NPB通算成績:1222試合出場/打率.276/1219安打/70本塁打/429打点/87盗塁/出塁率.332/長打率.384
●MLB所属歴(8年):セントルイス・カージナルス(ナ/2002〜07)―フィラデルフィア・フィリーズ(ナ/2008)―シカゴ・カブス(ナ/2009)*ナ=ナショナルリーグ
●MLB通算成績:672試合出場/打率.279/382安打/19本塁打/163打点/39盗塁/出塁率.332/長打率.385
●主な日本代表歴:2000年シドニー五輪(4位)

著者プロフィール

  • 杉浦大介

    杉浦大介 (すぎうら・だいすけ)

    すぎうら・だいすけ 東京都生まれ。高校球児からアマチュアボクサーを経て大学卒業と同時に渡米。ニューヨークでフリーライターになる。現在はNBA、MLB、NFL、ボクシングなどを中心に精力的に取材活動を行なう

2 / 2

キーワード

このページのトップに戻る