【MLB】大谷翔平の目標は「復帰」ではなく「進化」 ドジャース日本人三本柱への期待
今季のドジャース先発陣を担う面々(右から大谷、移籍のスネルと談笑する山本、佐々木) photo by Jiji Press
後編:ドジャース先発陣に日本人3投手が占める意味
3月18日、ロサンゼルス・ドジャースの2025年シーズンが東京ドームで幕を開ける。2年連続の世界一を目指すチームにおいて、大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希はポストシーズンに向けた先発三本柱として期待されているなか、3人はそれぞれどのようなアプローチでチームに貢献しようとしているのか。
開幕前の状態を踏まえ、それぞれの2025年シーズンを占ってみる。
【復帰ではなく進化を求め続ける大谷】
大谷翔平がメジャー屈指のパワーピッチャーであることは、すでに数字が証明している。2018年のデビュー以来、400イニング以上を投げた先発投手の中で、防御率が大谷より低いのはわずか5人で、奪三振率が大谷を上回るのは6人しかいない。しかし、故障の影響で7シーズンにわたる先発登板は86試合にとどまっている。
ロバーツ監督は先日、大谷の投手復帰が5月よりもさらに遅れる可能性を示唆し、指名打者としての出場を優先しながら慎重に調整を進めると説明した。
「投球練習の強度を上げつつ、試合での負荷も増やしていくのは得策ではないと判断した。だから、少しペースを落とすことにした」と語る。
これは大谷が「打者優先」を決めたという意味ではない。事実、このキャンプでは新たにノーワインドアップを試すなど、投手としての進化も模索している。
「バッティングもそうですけど、常に変化を求めていきたい。そのなかのひとつかなと思います」と大谷。マーク・プライアー投手コーチも「投球動作にリズムや躍動感があるのはいいこと。流れやタイミングを良くすることで、結果的に腕への負担も軽減できる」と前向きに評価する。
ただし、大谷の挑戦には大きなハードルがある。2度目のトミー・ジョン手術(ヒジの靭帯再建手術)から先発投手として復帰し成功した例は少なく、過去にはシカゴ・カブスのジェームソン・タイヨンとテキサス・レンジャーズのネイサン・イオバルディくらい。昨シーズン、ドジャースのウォーカー・ビューラー(ボストン・レッドソックス)は復帰を果たしたものの、ポストシーズンで好投した一方で、レギュラーシーズンは16試合に先発して1勝6敗、防御率5.38と苦戦した。
さらに、大谷には「二刀流」という特有の課題がある。打者として毎日試合に出場しながら、先発投手としてのスタミナを再構築しなければならない。これを成し遂げたのは、過去にロサンゼルス・エンゼルス時代の大谷自身しかいない。
通常、投手はマイナーでリハビリ登板を重ねて調整するが、大谷はチームを離れることがないため、メジャー球場で試合前にチームメイト相手にシミュレーション登板を行なう。これについても「前回の手術の時もやっているので、初めてではないし、自分のフィーリングが大事」と冷静に語っている。
印象的なのは、大谷が「元の状態に戻れるか」という不安をいっさい抱かず、むしろ投手としてさらなる進化を誓っていることだ。投球スタイルを新たに構築するのか、それとも過去の自分に近づけるのかと問われると、「ケガを恐れてパフォーマンスを落とすことはない。手術前にも言いましたけど、93~94マイル(150キロ)くらいだったら、ある程度(じん帯が)切れていても痛みなく投げられた感覚はあった。そこで満足することなく、どれだけうまくなれるかだと思う」と言葉に力を込めて答えている。
2024年、大谷は打者として飛躍的な進化を遂げた。次に目指すのは、投手としてのさらなる高み。そして、より「ハイレベルな二刀流」へ----大谷は常に、上だけを見据えている。
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著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。