大谷翔平「50-50」達成の舞台裏・対戦相手からの視点 清々しい真っ向勝負を選んだ理由

  • 杉浦大介⚫︎取材・文 text by Sugiura Daisuke

50本塁打目となる打球を追う大谷と思わず頭を抱えるバウマン(左) photo by Kyodo News50本塁打目となる打球を追う大谷と思わず頭を抱えるバウマン(左) photo by Kyodo News

本塁打を打つたびに、次の塁に走るたびに、それが新たな歴史となるロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平。

ひとつの節目となった「50-50」はマイアミ・マーリンズ戦での6打数6安打10打点3本塁打2盗塁という比類なきパフォーマンスのなかで生まれたが、下位に低迷するマーリンズはなぜ大谷との真っ向勝負を挑んだのか。

スキップ・シューメーカー監督、50本塁打を打たれたマイケル・バウマン投手の証言を元に振り返る。

【ベストな持ち球で勝負したバウマン】

 MLBを代表するスーパースターとなった対戦相手の大谷翔平が、50本塁打―50盗塁(50-50)という大記録の目前に迫っていた。この日のゲームではすでに4打数4安打1本塁打2二塁打と絶好調で、自軍は3−12と大量リードを許していた。

そんな状況下でチームの指揮官はどんな判断をすべきか。勝負を続けるか、それとも敬遠四球を与えて大記録の被害者となることを回避するかーー。

 マーリンズのシューメーカー監督は9月19日(日本時間20日)、ホームでのドジャース戦で選択を迫られた。絶好調期間に突入した大谷は、ナ・リーグ東地区でダントツの最下位に沈むマーリンズの投手陣にとって荷が重い相手であるが、とはいえ投手たちもハイライトシーンの引き立て役になることを好まないだろう。少なからずの野球人が頭を悩ませる状況で、シューメーカー監督の答えは明快だった。

「1点差のゲームだったら、たぶん歩かせていた。ただ、あれほど大差がついた状況でそれをやったら、ベースボール的に、カルマの面(意志を伴う行為とその結果)からも、野球の神が見ても、不適切な動きになる。(あの状況では)勝負し、打ち取ろうとするべき。このゲームに敬意を払い、勝負にいったんだ」

 結果を振り返れば、真っ向勝負を選択したことは完全に裏目に出たように見える。7回一死三塁の場面で右腕マイケル・バウマンが投じた得意のナックルカーブを、大谷は逆らわずに左翼に弾き返す。打球はマイアミのローンデポ・パーク特有のレストラン席に吸い込まれ、ここでメジャーの歴史が動いた。

「50-50」が達成された瞬間。大谷がスイングした直後、「しまった」とばかりに両手で顔を覆うような動きをみせたバウマンの姿も球史に刻まれることになる。昨季はボルチモア・オリオールズのリリーバーとして10勝を挙げた投手にとって、少々不名誉なことであるのは間違いないのだろう。

 ただ、救いを見出すならその試合後、メディアに囲まれたバウマンからは深い後悔の念は感じられなかったことだろう。29歳の右腕は日米の記者たちの前に直立不動で立ち、淡々と質問に応えていった。「歩かせるという考えはなかったのか」と聞いても、静かに首を振った。

「(ナックルカーブが)望んでいた場所にいかなかったが、彼はいいスイングをした。あれが私のベストの持ち球で、(機会があれば)また投げるよ。よい打撃だったから、脱帽するしかない。アグレッシブにいきたかった。ただ、彼がよい仕事をしたということだ」

 バウマンは18日のゲームでも大谷と対戦している。3対8とリードされた8回二死1、2塁の場面で、96マイル(154km)、97マイル(155km)の速球で簡単に追い込んだ末にナックルカーブで三球三振。真っ向勝負の気持ちよさは感じられた。第2ラウンドはリベンジに遭った形だが、その横顔にはリマッチでも"ベストの持ち球"で攻めにいった誇りが滲んでいた。

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著者プロフィール

  • 杉浦大介

    杉浦大介 (すぎうら・だいすけ)

    すぎうら・だいすけ 東京都生まれ。高校球児からアマチュアボクサーを経て大学卒業と同時に渡米。ニューヨークでフリーライターになる。現在はNBA、MLB、NFL、ボクシングなどを中心に精力的に取材活動を行なう

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