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父は元プロ野球選手でコーチ。
甲府工・山村貫太、「恩返し」の夏 (3ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Taguchi Genki

 貫太が当時の胸の内を振り返る。

「小さい頃から一番のチームにいるより、『一番のチームを倒したい』って思うタイプで。いま山梨で一番強いのは山梨学院なんで、倒すなら『どこがかっこいいかな?』と考えた時に、力のある公立校となると工業で......しかも、父もいましたし」

 甲府工に進むと決めた貫太は、自分の夢を綴った手紙を父に渡した。

 <お父さんと一緒に甲子園に行く>

 少年野球チームに入った小学生の頃から、父は自分の野球に干渉することはなかった。ただ、ひとつだけ言われ続けていることがある。

「とにかく一番を目指せ。結果を出せば、周りから文句は言われない」

 シニア時代もそうだったが、甲府工入学後も先輩や同級生たちは「元プロ野球選手の息子」としてではなく、山村貫太というひとりのチームメイトとして接してくれた。だから、「一番近くにいるお父さんが元プロ野球選手なのは、自分にとってアドバンテージだ」と、恵まれた環境に感謝した。

 父からは何も言ってこないが、自分から聞けばアドバイスをしてくれる。

 普段のグラウンドでは、外野手である貫太と投手コーチの父が交わることは少ないが、打撃練習などでは"対戦"が待っている。

 とりわけ、シート打撃での父は本気だ。宏樹は「調子に乗るから絶対に打たせない」と、本気で投げる。現役を退いた44歳といっても、高校生が「元プロ」のボールを容易く打てるものではない。

「何あれ? 打てないって」

 夕食中に貫太がそう愚痴ると、父はストレートや変化球の待ち方に対応の仕方、ピッチャー目線でストライクとボールの投げ分け方など、詳しく助言してくれた。貫太が1年春からベンチ入りし、秋にはレギュラーに抜擢されたのはその賜物でもあった。

 その一方で、外野の声が耳に入るようになった。「山村宏樹の息子」としての一面である。

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