体重100キロ超も投球は繊細。酒田南のエースはすべてがど迫力だ (2ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Nikkan sports

 その渡辺だが、このロッキングがじつにうまい。つまり、この練習をスムーズにできる投手というのは、股関節が柔らかく、ひざ、足首がうまく使えているという証拠だ。

「それはいいぞ!」と思ったら、ピッチングフォームがじつにすばらしい。いわゆる体が開かないフォームで、ボールの手どころがわかりづらい。半身のまま、つまり左肩を打者に見せたまま踏み込んで、十分にためをつくってから一気に体を切り返して右腕を振り下ろす。

 抜群のボディーバランスから放たれるストレートは、勢い、重み、すべてがド迫力だった。最終回、ようやくマウンドに上がると、あっという間の3者連続三振。145キロ前後のストレートと縦に鋭く曲がるスライダーに、相手打者は手も足も出なかった。

 投げたのは15球ほど。待ちくたびれて溜まったエネルギーを一気に爆発させたような、まさに圧巻のピッチングだった。

 体重は100キロを超えていても、十分にピッチャーらしいピッチャー。間違いなく全国レベルの逸材であることはわかった。本音を言えば、少なくとも3イングは見たかった。

 試合後、酒田南の学校関係者から面白い話を聞いた。渡辺は子どもの頃、"ちびっこ相撲"で鳴らしていたというのだ。あのしなやかで力強い股関節は、ここに理由があったのだと合点がいった。

 また地元の記者からは、前日の試合で2安打、11奪三振、無四球完封したと教えてもらった。見た目もボールも豪快だが、決して腕力だけに頼ったピッチングではない。このギャップがじつにいい。豪快かつ繊細な投手、それが渡辺拓海だ。

 チームを7年ぶりの甲子園へと導けるのか。渡辺のピッチングから目が離せない。

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