センバツ初出場の府立・乙訓高校の選手が「強豪校にビビらない」暗示 (6ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Kyodo News

 そういうポジティブな攻め方を徹底させるために、市川監督は相手バッターのデータを紙にして選手たちに配る。1番バッターはこのコースに強くてここが弱い、打球方向はこうで、だからこういう配球で抑えよう、ということを明確に示す。それで抑えられるのかは、市川監督自身も半信半疑だというが、それでも戦う前の選手たちに暗示をかけることが大事だというのである。

「『1打席目を抑えられたら、あとの4打席、全部大丈夫だから、1打席目を抑えろ』って送り出すと、1打席目を抑えられればそれがたまたまでも、全部抑えられたりするんです。あの子らにとっては初めての近畿大会だったし、智辯の赤いユニフォームを見たらビビるに決まってますから、心の拠りどころが必要だと思いました。

 あるバッターのことは、抑えられる方法、なしって書きましたけど、そういう相手ならシングルヒットはオッケーだと思えるじゃないですか。そうやって戦ったことが、智辯学園に勝てた理由のひとつだったのかもしれません」

 半世紀以上も甲子園から遠ざかっていた鳥羽で、キャプテンとして春夏の甲子園に出場した自信が、乙訓の監督となった今も、部員たちに説得力となって伝わっている。実際、市川監督は甲子園への距離感や空気を感じ取った上で、今のチームに自信を持てている。

「甲子園に出るためには、こういう雰囲気を出せる選手や、こういうレベルのピッチャーがいなければならないというラインはあると思います。でも、今年のチームが甲子園に出られたのは、49人の2年生(新3年生)が誰ひとりとして辞めてないというところが大きかった......レギュラーの子、ベンチに入る子、太鼓を叩く子、ボールボーイをする子、応援をまとめる子、みんなにそれぞれの役割があって、みんなに背番号がある。

 次の試合に勝つために、技術的なところ以前の人間的なところで、束になって戦えた。個々の野球の能力では智辯さんや桐蔭さんを上回れなくても、そういうところで戦えたんだと実感しています」

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