元ドラ1位選手が母校に指導者として戻ると、どんな仕事をするのか? (2ページ目)

  • 寺崎江月●文・写真 text & photo by Terasaki Egetsu

──20歳前後の若者に「智辯和歌山に戻ってこい」とは、いったいどこを見込まれたのでしょう?

中谷 僕にはわからない部分ですが、夏の甲子園初優勝のキャプテンというのが大きいのかな......。今でも、本当にどこを見られていたのかよくわからないです。う〜ん、高嶋先生と同じで名前に"仁"がつく繋がりですかね(笑)。

──現在の標準的な1日のスケジュールは?

中谷 平日は10時にスーツを着て学校に行って、練習までは職員室で事務をしています。野球部の生徒は午後2時頃から練習が始まり、全体練習は6時半ぐらいで終わり、そのあとに自主練習を夜の9時頃まで行ないます。土日には対外試合が組まれていますね。

 規定で対外試合ができない期間の週末は、新入生の候補を求めて中学生を視察に出かけます。今まではずっと高嶋先生がされていたんですけど、現在は僕が各地域のボーイズリーグなどの情報を収集し、ご挨拶や勧誘に足を運んでいます。

──セレクションの基準はどこにありますか。

中谷 うちは特待生制度も寮もないので、勧誘しても簡単には来てくれないんですよ(苦笑)。来てもらいたい選手ほど、特待生制度のある学校に決まってしまう傾向が強いです。それに県外からだと、一人暮らしさせることになるので、親御さんはお金もかかります。現状は和歌山県内の選手が大半で、県外出身者は1学年に2、3人ほど。正直なところ「智辯和歌山で野球をやりたい!」というのがセレクトの第一条件ですね。

──プロと高校野球で、指導方法の大きな違いは何でしょうか。

中谷 僕はプロでのコーチ経験がないので、その感覚は正確ではないかもしれませんが、プロと違って高校野球は期間が限られています。入学してから3年生の8月まで、正味2年と5カ月しかありません。2年5カ月で甲子園に出る、甲子園で活躍する、その先も野球を続けていくような野球観とか人間性を養う、というのは非常に時間が短いです。

 ですからプロのように1、2年じっくり時間をかけて育てて3年目から5年目あたりに一軍で活躍してくれたらいいな、といった構想が高校野球ではありえない。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、僕にとっては、母校に戻ってこなければ、きっと永遠にわからなかったことでしょう。

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