【自転車】片山右京「僕が自転車にハマッたある人との出会い」 (2ページ目)
F1の現役選手時代にも、トレーニングの一環として自転車を採り入れることはあったものの、この当時は自転車に対して、とりたてて強い関心や興味を抱くまでには至らなかったようだ。
「トレーナーがトレーニングにトライアスロンを組み込んで、自転車と水泳とマラソンをやるようになったんですが、何でこんなに自転車を漕がなきゃいけないんだ、と。トレーナーからは、『身体に無理な負担がかからなくて、上り坂で負荷がかかるから心肺機能にすごくいいんだ』と説明されて、たしかに今では9割のドライバーが自転車でトレーニングをしているんですが、そのころはそんな話を聞いても全然ピンとこなかった。サイクリングは楽しかったのに、競争で必死に下向いて、パワーを一定に安定させて、脈拍をコントロールして、乳酸値が上がって......って、全然こんなの面白くねえな、というのが、当時の印象でした。
ただ、練習用にサイズを合わせて作ってくれた自転車に、ブルホーン(※)が装備されているのを見ると、子どものころに自転車をいじくってた記憶もあって、『あ、かっこいいなあ』と感じるような、そういう漠然とした興味はありましたね」
※ブルホーン=牛の角のように前方に突き出した形状のハンドルバーで、タイムトライアルなどで使用される。
そんな程度の関心しか持たなかった片山が、あるときから、一気に自転車へのめり込む。
その大きなキッカケになったひとつが、今中大介との出会いだ。
「たぶん、(自転車競技出身の)井上が画策したんだと思うけど、あるとき、仕事で今中さんたちと鼎談することになったんですよ」
と、片山は回顧する。
偶然にも片山と同年齢の今中大介は、近代ツール・ド・フランスに日本人として初めて参戦した選手である。ちょうど片山がF1でティレルに所属して世界を転戦していたころ、今中も自転車レースの本場欧州に渡り、ジロ・デ・イタリア(1995年)、ツール・ド・フランス(1996年)へ参戦するなどの競技生活を送っていた。
「今中さんがアルミフレームのロードレーサーを『乗ったてみたら?』と、1台くれたんですよ。それに乗った瞬間に、そのあまりのスピード感にビックリした。
子どものときに初めて自転車に乗って体験する速度感覚ってあるじゃないですか。バンジージャンプで空に放り出されるような、あの開放感。大人になってずいぶんと時間が経つし、F1にも乗ってたくせに、想像していたのとまったく違うカルチャーショックがあったんです。それが9年前、42歳のとき」
この出来事を契機に、片山は自転車ロードレースの競技へ、自らが選手として一気にのめり込んでいくようになる。
著者プロフィール
片山右京 (かたやま・うきょう)
1963年5月29日生まれ、神奈川県相模原市出身。1983年にFJ1600シリーズでレースデビューを果たし、1985年には全日本F3にステップアップ。1991年に全日本F3000シリーズチャンピオンとなる。その実績が認められて1992年、ラルースチームから日本人3人目のF1レギュラードライバーとして参戦。1993年にはティレルに移籍し、1994年の開幕戦ブラジルGPで5位に入賞して初ポイントを獲得。F1では1997年まで活動し、その後、ル・マン24時間耐久レースなどに参戦。一方、登山は幼いころから勤しんでおり、F1引退後はライフワークとして活動。キリマンジャロなど世界の名だたる山を登頂している。自転車はロードレースの選手として参加し始め、現在は自身の運営する「TeamUKYO」でチーム監督を務めている。
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