元ボクサーを支援。日本プロボクシング協会が「袴田事件」をマンガ化

  • 小石勝朗●取材・文・撮影 text&photo by Koishi Katsurou

 死刑判決を受けながら冤罪を訴え続けてきた元プロボクサー・袴田巖さん(82歳)の支援活動を続ける日本プロボクシング協会(JPBA)は、事件や裁判の経緯と問題点を多くの人に知ってもらうためマンガを制作することを決めた。2月15日から毎月15日に、同協会袴田巖支援委員会のホームページへ掲載する。

日本プロボクシング協会のメンバーと制作発表に臨んだ森重水さん(左から2人 目)、袴田巖さんの姉・秀子さん(同3人目)日本プロボクシング協会のメンバーと制作発表に臨んだ森重水さん(左から2人 目)、袴田巖さんの姉・秀子さん(同3人目) 袴田さんの最高位は日本フェザー級6位で、1960年には年間19試合の最多試合記録を持つ。体を壊して引退後、住み込みで働いていた味噌会社で1966年に起きた一家4人殺害事件(袴田事件)の「犯人」とされ、80年に死刑が確定した。2014年に静岡地裁で再審(裁判のやり直し)の開始が認められて釈放されたが、再審開始は昨年6月に東京高裁に取り消され(釈放は取り消されず)、現在、最高裁で審理が続いている。

 支援委員会は再審開始が覆されたのを受けて「このまま黙って待っていると袴田さんが再収監されるおそれもある」と対応を協議。その結果、「ボクシング界の発信力を生かし、この事件のことを子どもにも分かりやすい形で伝えたい」(新田渉世委員長)とマンガ化することを決めた。

 マンガを描くのは、森重水(しげみ)さん(30歳)。袴田事件が起きた静岡県清水市(現在は静岡市清水区)で小学4年から25歳まで過ごし、事件のことをニュースなどで見聞きする機会が多かったという。ボクサーの経験もあり、プロライセンスを取得してバンタム級で1分2敗の戦績を残している。袴田さんとの接点が多く、「強い思いで取り組んでくれる印象を受けた」(新田氏)として依頼した。

 マンガのタイトルは「スプリット・デシジョン~袴田巖 無実の元プロボクサー」。スプリット・デシジョンとは、ボクシングで判定が2対1に割れることで、袴田さんの一審判決を担当した元裁判官が「自分は無罪を主張したが、2対1の多数決で死刑に決まった」と告白したことにちなんでいる。全6回の予定で、終了後は小冊子にしたり外国語版を作ったりすることも考えているという。

 森さんは制作発表の記者会見で「捜査の杜撰(ずさん)さや袴田さんの半生を少しでもわかりやすく描き、ひとりでも多くの人に読んでいただきたい。裁判で開示された取り調べの音声を聞いたり資料にあたったりしており、袴田さんを支援する側の意見の押し付けにならないように配慮して『事実』を伝えたい」と意気込みを語った。

 袴田さんの姉の秀子さん(85歳)は「巖は釈放されていますが、裁判は決着していません。できることは何でもやる気持ちでおり、事件のことをみんなに知らせ理解してもらうために、こういう企画はありがたい」と話している。

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