2019.07.31

世界への道を拓いた高野進。
バルセロナ五輪400m決勝までの破壊と冒険

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by PHOTO KISHIMOTO

「悲惨な状況で、31歳になって練習もほとんどできていなかったので、『高野は世界選手権までだったんだな』と周囲は誰もあきらめていましたね。でも、自分だけはあきらめきれなかったんです。シーズン序盤からズレがあったとはいえ、そのズレが最後の段階に来ているという手応えが自分の中にあったので…。過去2回の五輪に比べると体力は落ちているけど、世界陸上で決勝に残ったという事実もあるし、バルセロナは決勝に残れる、という変な自信があったんです」

 こう話す高野が決勝進出のためにいちばん意識したのは、2次予選だった(当時は現在のような3ラウンド制ではなく、1次、2次予選のあとに準決勝、決勝と続く4ラウンド制だった)。

「準決勝に残る顔ぶれはだいたいわかっているので、2組に分かれるうちのどっちに転ぶかで、決勝へ進出できるかどうかが決まる。確率は2分の1だけど、それを決めるのは2次予選の走り。そこで頑張ってベスト4に入っておかなければいけないんです」

 1年前の世界陸上では、全体2位のタイムでそれを実践できた。だが、バルセロナではできなかった。第2組で2位だったが、記録は45秒27。全体の9番目の記録での通過だった。そのため、準決勝は第1組で、カーブが急で不利な1レーンになった。だが、そのレースでは、2次予選の同じ組で高野に先着していたレドモンド(イギリス)が途中棄権。シーズンベストの45秒09で走った高野は4位に入り、世界選手権に続く決勝進出を果たした。

「冷静に見れば、普通に走って5番かな、と思っていたんです。何かラッキーがなければ決勝には残れないなと思ったけど、望みは持って走りました。だから、レース後に『運が良かった』とコメントしたんです」

 そう話す高野だが、2日後の決勝ではもう、それ以上で走る力は残っていなかった。いちばん外側の8レーンを走ったが、結果は45秒18で8位。