「勝つ、勝つ」。マラソン井上大仁は自分を追い込んで有言実行の金 (4ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 奥井隆史●写真 photo by Okui Takashi

 この大会へ向けて井上は、自ら「金メダルを狙う」と公言してきた。それは自分に負荷をかけることだが、「それを乗り越えられないようでは、さらに大きな舞台に行っても勝負ができない」という思いがあった。自分を追い込み、3カ月間のマラソン練習をしっかり消化できたことは、今後に向けて大きな自信になるはずだ。

「本当にいい仕上がりで、昨日の最後のミーティングでも、本人が『調子が上がってきています』と言うほどでした。逆に、レース前のウォーミングアップを見ていたら、よすぎるので心配になり、行きすぎないようにと注意して送り出したほどです。レースでも『最後は絶対に負けない』という気迫を出せたのは井上らしさだったと思いますが、ただ自分で仕掛けて勝ったのではなくラスト勝負だけだったので、そこは課題ですね。

 学生時代はなかなか勝てず、(今回)勝ち切れたことは意味がありますが、37kmくらいで仕掛けて40kmはひとりで通過するイメージでやってきたので、もう少し思い切ってやってほしかったですね。その点では、もう1回ちゃんとしたレースをやらなければいけないと思います」(黒木監督)

 今回のレースのように、勝機が自分の手元に来るまで我慢し続ける強靭な精神力、さらに、遅いペースで力をセーブして走るときに体力のロスなく走り切る技術も重要になる。黒木監督は少し辛めの評価を口にするが、そうした技術の確かさと精神力の強さを、井上は見せてくれた。

 こうした経験の積み重ねが"強さ"へとつながる。井上はこの大会の勝利で、強いマラソンランナーへの階段をひとつ上がった。

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