次こそ大舞台で勝つために。悔しい銅メダルから高梨沙羅が得たもの (4ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by AP/AFLO

 今季は開幕からの6戦で5勝と順調に来ていただけに、この世界選手権でも勝たなくてはいけないというプレッシャーもあったはずだ。1月の札幌大会で少し調子を崩したのは、「節目のW杯50勝を地元で」という強い思いとともに、近づいていた世界選手権を意識しすぎたからだろう。

 また、勝ち星を重ねて絶対的なメダル候補として臨んだ、14年のソチ五輪や15年の世界選手権で4位という結果だったことも、頭の片隅にはあったはずだ。

 個人戦のあと競技場内でテレビのインタビューを終えて記者たちの前に来た高梨は、「テレビの前で観ている人たちに夜遅くまで応援してよかったなと思ってもらいたいので、ベストを尽くしたいと思って、それが力みにつながったのかもしれない」と言うと、大粒の涙をボロボロと流し始めた。ソチ五輪ではゴーグルの中に隠し、15年世界選手権ではこらえた涙が今回流れたのは、金メダルを獲れなかった悔しさとともに、最低限の合格点ともいえる銅メダルを手にした安堵感からかもしれない。

 世界のレベルが上がってきている中で、勝ち続けることの難しさを一番知っているのは高梨自身だ。だからこそ、この銅メダル獲得は彼女にとって、14年ソチ五輪と15年世界選手権でメダルを逃す4位に終わったというトラウマを吹き消すものになったといえるだろう。勝ったり負けたりしながら、その競技の面白さや魅力を改めて知っていくという選手本来の姿。高梨はこれからそんな競技者としての一歩を踏み出すはずだ。それは彼女が今大会、流した涙と笑顔から確信できる。

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