宇野昌磨が『Ice Brave』で得た手ごたえ「感動って最高のリアクションだと思う」 11月から『2』も開催決定 (2ページ目)
【つくりものではないスポーツを伝える】
ーー個人的にフィギュアスケートは底知れない力を持っていると思っています。自分は過去にスペイン・バルセロナに住んでいて、2005年に初めて浅田真央さんのGPファイナルを取材した時、感動して涙が出てきました。当時はフィギュアを何も知らず、背景も知らなかったのに、それは衝撃的でした。そんなフィギュアスケートの力をどうエンタメとして変換しようとしていますか?
僕の場合は、選手としてフィギュアスケーターをやっている間も、その界隈にはあまり溶け込めていない部類だったので(笑)。言い方は難しいんですけど、SNSで発信している自分のほうが考え方は近いかもしれません。スケートそのもので感動するよりも、その人の努力やストーリーを見て感動することのほうが多くて。
だからこそ、プロになって僕自身が知りたいのは、どうすれば皆さんに感動してもらえるのか。感動って最高のリアクションだと思う。そのためにどうするか。自分の場合は努力することじゃないですけど、熱量をこめればこめるほど、感動に直結するのかなって。
フィギュアスケートの力についての解答にはなっていないかもしれませんけど......スポーツってつくるものだけど、つくりものではないところがあって、労力や熱意が垣間見える瞬間に人は感動するんじゃないかって。そういうショーを僕はつくりたいし、『Ice Brave2』で構成のひとつに入れてもいいかなって思っています。
ーー『Ice Brave』はフィギュアスケートとエンタメを両立させたものでしたが、その点、若々しいスケーターたちの躍動のなかに、現役時代のコーチであるステファン・ランビエールがいたことが、ショー全体に重みを与えているように感じました。ランビエールのスケートは大人の色気があり、それもショーが好評を博した理由のひとつだと思います。『Ice Brave2』では残念ながら不在(競技活動のコーチをするため)になりますが......。
ステファンの代わりは想像しきれてないですね。ステファンは師匠というか、関係性も特別じゃないですか? そもそもコーチであれだけ滑れる人なんてなかなかいない(笑)。今は、「こんな挑戦したい」というのはいくつか考えているんですが、ステファンが抜けて、何をすることで「1」よりいいと思ってもらえるか。そこはプロデューサーとして考えないと......。
ーー個人的には、今回、『Gravity』や『Timelapse』を滑っていたランビエールは芸術の域で、インスピレーションを与えるような手本にも見えました。スローな曲はスケーティングの粗(あら)が出やすいのに完全無欠の滑りで、彼の世界に人々を引き込んでいました。
現役時代、『Gravity』は振り付けもステファンだったので振り付けをしてもらっている間も、僕よりもこの人が滑った方が絶対にうまいだろって思っていました(笑)。そこで『Ice Brave』では、『Gravity』はステファンにやってもらうかと思ったんです。だから、僕よりもうまいんだから当然じゃんって驚きではなかったですね。『Gravity』は(デュエットで)一緒に滑ろうかとか、いろいろ案はあったんですけど。
【プロフィール】
宇野昌磨 うの・しょうま/プロフィギュアスケーター。1997年12月17日、愛知県生まれ。現役時代には全日本選手権優勝6度、世界選手権連覇、2018年平昌五輪銀メダル、2022年北京五輪銅メダルなど華々しい成績を残す。2024年に現役引退し、現在はアイスショー出演などプロスケーターとして活躍している。2025年6月〜7月に自身が初めて企画プロデュースしたアイスショー『Ice Brave』を名古屋、新潟、福岡の3都市で開催。同年11月〜2026年1月には『Ice Brave2』を京都、東京、山梨、島根、宮城で開催予定。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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