レジェンド本田武史が現代のフィギュアスケート界を語る「次のスターが出ないと難しくなる」 (3ページ目)
【ある環境のなかで工夫する大切さ】
ーー最近では通年リンクも新設され、環境も改善されているとは思います。
今年7月に「シスメックス 神戸アイスキャンパス」や「ゼビオアリーナ(仙台市アリーナ)」がオープンして、9月には「東京辰巳アイスアリーナ」もできるのでリンクが増えているのはたしか。でも、一方で閉鎖するリンクもあります。もちろんリンクの存続という面では一般滑走もやらなければいけない。仙台で練習していた時も貸し切りもあったけど、一般滑走で人が多いなかでジャンプを跳んでいたし、伊藤みどりさんもそうだったから人がいても跳べるという感覚をつけなければいけないと思います。
トップ選手になると個人で貸し切りもできるけど、それをジュニアなど若い選手は当たり前だと思わないでほしいです。全国にアカデミーもできましたが、そこでの当たり前の環境は当たり前じゃない。今指導している先生たちが環境の整っていない時代を生きてきたからこそ、知識を深めたし、工夫もできた。
カナダやアメリカにはリンクがいっぱいあって安い値段で好きなだけ滑れるんですが、子どもたちは意外と行かないんです。だからやっぱり、環境を言い訳にはしないほうがいいと思いますし、やっぱりみどりさんから浅田真央にトリプルアクセルがつながったような歴史は学んだほうがいいのではないかな。
環境を整備するのはすごくいいと思いますが、昼間は学校に行って練習は朝と夜しかない日本でこれだけ選手が出てきたというのは、ある環境のなかで工夫してやっていたからだと思います。坂本花織は今も一般滑走でお客さんがいるなかで練習して世界チャンピオンに3回もなっているんですから。それを忘れないでほしいですね。
海外では、リンクはあるけど指導者が育っていない面もある。カナダは今、選手が出てきてないけど、アメリカはなぜかグンと上がってきている。それだけ教える人材がいるということだし、そこの差が大きいということだと思います。
(文中一部敬称略)
<プロフィール>
本田武史 ほんだ・たけし/1981年、福島県生まれ。現役時代は全日本選手権優勝6回。長野五輪、ソルトレイクシティ五輪出場。2002年、2003年世界選手権3位。現在はプロフィギュアスケーターとしてアイスショーに出演するかたわら、コーチや解説者として活動している。
著者プロフィール
折山淑美 (おりやま・としみ)
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。
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