検索

羽生結弦「自分の心と正義を信じてまっすぐ進んでいきたい」単独ツアー完走で得たもの (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Echoes of Life Official

【みんな生きて......さまざまな祈りを込めた舞】

 そして羽生の集中力は、30分間の製氷休憩を挟んだあとの後半にはさらにヒートアップする。「憎悪たちに、自分の正義を見せる」と決意した戦い。

 氷上に映し出された水面のような光景のなかで、生命の誕生を予感させる優しい滑りの『アクアの旅路(Piano Solo Ver.)』。毎日を生きたいという思いのなかで踊る『Eclipse/blue』。そして命を探して疾走し続ける表現の『GATE OF STEINER-Aesthetics on Ice』は、狂おしささえ感じさせる力強さだった。

 そして、『Danny Boy』の印象は強烈だった。

「ストーリーとしてあのシーンは、あの世界で生命がほとんどなくなってしまったなかにやっと芽吹きが与えられることに気がつき始めるところ。自分の周りに命が宿っていくことへの祈りというか、その一つひとつの命がどうか育ってくれますように。みんな生きてくれるようにっていうことへの祈りが、Novaとしては一番強かった。最後は『みんな生きて』と言っていました」

 その踊りは、平安というより清冽(せいれつ)だった。澄みきった心で静かに滑り続ける舞のような......。その静謐な空気で見ている側の心も洗われていった。

「もう必死でしたね。とにかく全身で祈るというイメージでずっと滑っていました。その祈りが『Danny Boy』の原点にある死者への弔いという意味の祈りもあるし、ここに来てくださっている会場の皆さんの希望への祈りであったり。僕自身の個人的な幸せへの祈りだったり、スタッフへの祈りだったとか。本当にもうごっちゃにいろんなものが混ざってしまってはいるんですけど、すべてを一緒くたにして、音とともに祈るという気持ちでただひたすら祈っていました」

2 / 3

キーワード

このページのトップに戻る