王者マリニンの「隙」がGPファイナルで明らかに? 世界選手権で鍵山優真の逆転なるか
GPファイナル男子シングル編
フランス・グルノーブルで開催されたフィギュアスケートのGPファイナル男子シングル。昨季の世界王者イリア・マリニン(アメリカ)に、やってみたいことを何のてらいなくやらせてしまった大会となった、と言えるかもしれない。
マリニンがトライしたのは、2022年ジャパンオープンの公式練習で見せていた、フリーの全ジャンプに4回転を入れる構成だ。封印していた構成を公式戦で初めて披露したのだ。
一方、鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大学)も今季は、マリニンと同じく合計得点を300点台に乗せている。マークしたのは、11月のNHK杯。フリーで4回転フリップを転倒、4回転トーループでもミスしながら、300.09点を記録した。それゆえ、鍵山にとっては今回、構成難度を上げてくると見られたマリニンと、ノーミスをそろえた際での差を確かめる大会であった。
GPファイナルで優勝したイリア・マリニン(中央)、2位の鍵山優真(左)、3位の佐藤駿(右)
【緊張しすぎて...鍵山優真はミスが目立つ演技】
だが、鍵山はショートプログラム(SP)の出だしで誤算が生じてしまった。これまで完璧に跳んでいた最初の4回転サルコウで、氷が硬かったのか、着氷したあとにスリップするような形で転倒した。
「タイミングがズレて少し回りすぎたかもしれないですが、回転をコントロールできなかったのがよくなかったです。気持ちが入りすぎていたのかはわかりませんが、降りてから転ぶ形だったので、ジャンプ自体は悪くなかったですが......。それでもその後、ネガティブな気持ちにならずにいつもどおりでいられたのは、ひとつの収穫かなと思います」
序盤のミスについてこう説明した鍵山。その後の2本のジャンプは高いGOE(出来ばえ)加点をもらう滑りにしたが、思いのほか加点をもらえず、93.49点にとどまった。
最終滑走のマリニンは、後半の連続ジャンプの4回転ルッツが、4分の1回転不足の「q」判定でわずかに減点されたが、余裕のある滑りで105.43点を獲得。鍵山は大差をつけられる2位発進になった。
翌日のフリー。鍵山は少し硬い表情ながら、丁寧に滑り出した。そして、「カギになってくるのでしっかり決めたい」と話していた最初の4回転フリップで、少し内側に振られるような着氷になったが、何とか耐えた。
しかし、次の4回転サルコウは2回転になるミス。その後は立て直し、4回転トーループからの連続ジャンプやトリプルアクセルからの3連続ジャンプなどをきっちり決めたが、最後の3回転ルッツ+3回転ループはセカンドが2回転になり、着氷でもフリーレッグが氷をかするミスをした。
さらに、ステップシークエンスと2本のスピンもレベルを取りこぼし、フリーは188.29点。合計は281.78点で2位に終わった。
演技後、鍵山は「もちろん優勝を狙っていたので、ショートもフリーもミスがあり、すごく悔しいですが、メダルを獲れたことは素直にうれしいです」と言いつつも、納得しきれない結果だったことは、その表情からも明らかに見て取れた。ゆえに、「緊張しすぎて思ったほどうまくできなかったことを後悔しています。緊張しないように感情をうまくコントロールできるようになりたい」と、同時に反省の弁も述べた。
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著者プロフィール
折山淑美 (おりやま・としみ)
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。