鍵山優真は予想外の転倒がなければ...全日本で見せたマリニンに迫る可能性 (3ページ目)
【攻めの演技で成長】
終盤のステップシークエンスで少しつまずくシーンもあり、「やってしまった、と思った」と苦笑した。
「とにかくスピンもステップもジャンプも、GOEやレベルをしっかりとるつもりで全力でやっていたので、気づいたらステップの時にはもう体力がなくなっていて、足にもほとんど力が入らなくなっていました。あそこは少しでも失敗したら曲に遅れてしまうところだけど、そのへんは冷静に対処できたかなと思います。丁寧に、一つひとつの要素を落ち着いてやろうと思っていて、そこはできたかなと思います」
前戦のGPファイナルで鍵山は「4回転が少ない構成のなかで、自分が今、勝負するためには各要素で高いGOE加点を獲得すること」と話していた。そして、そういった演技が自分の長所でもある、と。ハイレベルな戦いとなった今大会、フリーはその強みを最大限まで出す、全身全霊をかけた演技だった。
鍵山にとって今回の全日本は大きな収穫だった。これまでのGPシリーズは、完全回復への半ばということで、演技構成も無理はせず、冷静さも感じる演技だった。だが、今回は同世代の選手たちが成長した姿を見せ、ハイレベルな戦いを繰り広げるなか、心に炎をともせたのだろう。だからこその攻めの演技だった。
そして、フリーで200点に迫れたことで、SPさえ安定して100点台を出せれば、宇野やイリア・マリニン(アメリカ)、アダム・シャオ イム ファ(フランス)と戦うために必須となる合計300点台も、視野に入った。そして、これから4回転を増やす構成への意欲も高めた。
「フリップを入れるのかトーループをもう1本増やすのかはまだ決めていないけど、すぐに新しい構成に向けてやっていきたいと思っています。ただ、そのためには準備期間もすごく長く必要だと思います。4回転を増やすと振付けも変わってくると思うので、もっとブラッシュアップしながらいいプログラムをつくり上げていきたいなと思っています」
ケガで1シーズン足踏みした鍵山。今大会の本気の戦いは、ギアをもう一段、加速させただろう。
著者プロフィール
折山淑美 (おりやま・としみ)
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。
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