2019.10.08

4回転は跳べないけれど──。
宮原知子は自分の強みを磨き続ける

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

「調子は悪くないです。氷の感覚やリンクの大きさを確かめながら、プログラムのコースを意識して滑りました」

今年もジャパンオープンに出場した宮原知子 宮原知子(21歳)は、薄くピンクに染まる唇を結んで言った。凛として話す言葉は、演技と同じく無駄がない。『ジャパンオープン2019』の前日、公式練習のあとのことだ。

「ノーミス」

 それが、宮原の代名詞の一つだろうか。完璧に滑るため、技術の修練を重ねてきた。その硬骨な生き方が、たおやかなスケーティングに昇華され、人々を惹きつける。

 しかし、女子選手も4回転ジャンプを跳ぶ時代が到来する中、”古風な”彼女もその現実に対峙せざるを得なくなった。今シーズンからは濱田美栄コーチだけでなく、カナダを拠点にするリー・バーケルコーチの指導も受ける。そして9月に開催されたUSインターナショナルクラシック2019では優勝。フリーでは冒頭にダブルアクセルに成功し、この先、トリプルアクセルを組み込むプログラムを滑った。

「トリプルアクセルはまだ降りたことはないです。でも、踏み切る感覚はだいぶわかってきました。(翌日の試合では)しっかりと跳べるようなジャンプ構成に戻しましたが」

 宮原は言い、次の質問者のほうへ体をくるりと回した。その所作だけで、律儀さと愛くるしさが伝わった。

 新時代を、彼女はどう生きるのか?

 10月5日、さいたまスーパーアリーナ。地域別対抗戦の『ジャパンオープン』、女子2番手で登場した宮原は、右手を柔らかく頬に当てた。手首に巻いた布がふわりと揺れる。フリー曲「シンドラーのリスト」が流れるのを待つ。

「絶望の中でも、光を追い求める姿を表現したい。(人間が生きる)底力のようなものを」

 彼女は前日、そう話していた。