羽生の度胸、真央の涙。主将・鈴木明子が見た日本チーム (2ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro 笹井孝祐●撮影 photo by Sasai Kosuke

──今回、鈴木さんは団体戦の日本代表キャプテンという大役を任されました。

鈴木 全員が「わかっている選手」ばかりなので、私はあえて何もしませんでした。団体戦では、男子シングルでゆづ(羽生結弦)が先陣を切りました。

 オリンピックはただでさえ雰囲気が独特なのですが、団体戦は初めてだったので、いつもの大会とは全然違う。ロシアの応援がすごくて、完全に「アウェー」。そのなかで、ゆづが飛び出していったんですが、自分の演技にすごく集中していて、パーフェクトにショートを終えました。

 彼は、初めてのオリンピックなのにすごく落ち着いていて、滑り終わったあと、応援席で見ていた選手たちにアドバイスしてくれました。「歓声がすごすぎて、6分間練習のとき、残り1分のコールが聞こえづらいよ」とか「演技前もざわざわしているけど、自分への声援だと思ったほうがいい」とか。若いのに、冷静なんですよ。実際に演技をして感じたことを自分の言葉で伝えることで、あとに続く選手を助けてくれたんです。

 フィギュアスケートは個人競技ですが、どうすればみんながベストを尽くせるかを考えて、「あいつががんばっているから、オレも!」という感じでした。みんなが支えながら伸びる、いいチームだったと思います。

──鈴木さんにとってソチは、バンクーバー大会に続いて2回目のオリンピック。前回は、「閉会式のことしか覚えていない」と言っていましたが、今回はどうでしたか?

鈴木 バンクーバーのときは個人戦だけだったので滞在期間が短かったから、あまり記憶がありませんでした。もちろん、緊張しすぎていたせいもあるのですが。今回は、オリンピックの雰囲気を感じることができて、そういった意味では楽しかったですね。

──オリンピックに続いて、3月には日本で世界選手権。この大会が最後の試合となったわけですが、出場するかどうかはかなり迷ったそうですね。

鈴木 はい。オリンピックですべてを出し切ったという思いもありましたし、競い合うことに「疲れたな」とも感じていて。足の痛みに耐えられそうにもなかったし。もう、がんばれない......そんなときに髙橋大輔選手にこう言われたんです。

現役最後の舞台となったのは日本開催の世界選手権だった photo by Noto Sunao(a presto)現役最後の舞台となったのは日本開催の世界選手権だった photo by Noto Sunao(a presto)「もうがんばらなくてもいいんじゃない? みんながあっこちゃんの滑りを待ってるよ」

 その言葉で、世界選手権に出ることを決めました。

 世界選手権が終わった瞬間は、ほっとしました。無事に選手生活を終えることができたという思いがあり、日本開催の世界選手権という最高の舞台で、日本のファンのみなさんに見守られての引退なんて、これ以上に幸せなことはありません。

 これまでは、成績が悪かったらどうしよう? いい演技ができなかったらどうしよう? と思って怖くなって不安になることもあったのですが、今回はやり切れたことが幸せでした。そして、ほっとすると同時に、これからがスタートだと感じました。

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