阿部一二三と丸山城志郎の死闘。勝敗を分けた2度のブレイクタイム (2ページ目)

  • 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji
  • photo by Kyodo News

 そして、この日初めて、丸山が巴投げに入る。

 内股以外にもうひとつ、阿部が警戒していたのがこの技だろう。前に出続ける攻撃柔道が持ち味の阿部だが、GSに入ってから不用意に前に出て、巴投げで敗れるのがこれまでの負けパターンだった。同じ轍を踏まないように、相手に圧をかけながら、重心を低く構えて、丸山との間合いを詰めていく。

 丸山も巴投げだけでなく、肩車などで阿部を倒そうと試みるも、阿部はピクリともしない。阿部も担ぎ技だけでなく、この日は小内刈り、支え釣り込み足、そして大内刈りと足技も多投するが、凛とした姿勢で丸山は対処する。

 これまで丸山の4勝3敗という拮抗した両者の実力に、はっきりとした差があったとしたら、スタミナだ。試合開始からフルスロットルの阿部がGSに入ってから動きが鈍くなる傾向は確かにあった。

「これまで負けた試合は、ゴールデンスコアに入ってから柔道が雑になる部分があった。(コロナで自粛生活中に)しっかり走り込んだので、長い時間戦ってもスタミナが切れなかった」

 そうは言うものの、この日の試合で阿部の息が上がっているように見えたシーンがなかったわけではない。最初は試合時間が12分を経過した頃。阿部の動きがやや鈍くなり、丸山が組み手争いで優位に運んでいた。

 もうひとつは、阿部に2つ目の「指導」が宣告されて両者のポイントが並び、しばらく時間が経過した22分過ぎだ。

 しかし、いずれのシーンでも阿部は指の裂傷や鼻からの出血で、一時、試合を止めた。息が詰まるような試合の中で生まれたちょっとした間によって、阿部は呼吸を整え、試合終盤の怒濤の攻撃へとつなげていく。

 そうした迎えた24分。阿部は一度、大内刈りを繰り出し、さらにもう一度──。体勢を崩された丸山は返そうと試みる。が、背中を畳につけたのは丸山だった。

「技あり」

 そう宣告した天野安喜子主審は、ビデオでの確認を待ち、そして阿部の勝利が確定した。

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