【F1】熱狂の表彰台。フェラーリが地元で見せた勝利への執念 (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki  桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 そして、予選後にもひと騒動あった。予選では2台のマシンで編隊走行をし、スリップストリームを使いあって少しでも空気抵抗を減らし、上位グリッドを狙う作戦を採った。

 しかし、その過程でアロンソが「フェリペ(・マッサ)が離れすぎている! 君たちは最高だな!」と皮肉交じりに話した無線交信だけがテレビ放映に乗り、フェラーリがこの作戦に失敗していよいよアロンソとチームとの関係が悪化したとメディアが色めき立ったのだ。

 実際にはこのスリップストリーム作戦は成功し、フェラーリは第2戦マレーシアGP以来ベストとなる予選4位・5位という結果を得た。

 アロンソは呆れ顔でこの騒動を切って捨てた。

「この3、4戦、ずっとそうだよね。なかには、いまだに僕らの間に不和を生じさせようとしている人もいるみたいだけど、僕らにはもっと重要な信念がある。僕らの間に不和なんて存在しないし、常にタイトル獲得に向けて戦っている。記者会見ではいつもそう説明するけど、そんな当たり前のことを書いても新聞が売れるわけじゃないからね」

 そこには、レッドブル独走の今季、読者の興味を失わせないように話題づくりをしようというイタリアメディアの思惑が透けて見える。また、佳境を迎えた来季のシート争いで、自分たちの交渉を有利に進めるために一部のチーム関係者やドライバー陣営が意図的にこうした噂話を流していることも想像に難くない。

 現状のフェラーリのマシンは、レッドブルには遠く及ばない。通常の空力パッケージを使用するサーキットではメルセデスAMGやロータスにも及ばない。しかし、このイタリアGPでは、モンツァ用パッケージが不発だった彼らを打ち負かすことはできた。その点では、フェラーリは地元グランプリで幸運に恵まれていたことになる。

 決勝ではアロンソの走りが光った。

 スタート直後を勝負どころと見た5番グリッドスタートのアロンソは、2周目からマーク・ウェバー(レッドブル)に猛攻を仕掛け、3周目にアグレッシブな追い抜きでオーバーテイク。2台横並びのサイドバイサイドでシケインを曲がり、ウェバーのフロントウイングがアロンソのリアタイヤに接触するほどの超接近戦だった。その後2位まで浮上したものの、すでに大きく先行していた首位ベッテルに追いつくことができないまま周回を重ねていった。

 だが、フェラーリ陣営は勝利をあきらめていたわけではなかった。

 23周目にベッテルがタイヤ交換のためにピットインすると、フェラーリはここで一縷(いちる)の望みを賭けて勝負に出た。

「展開によっては勝てる可能性もあると思っていました。レッドブルのタイヤが最後にタレれば、逆転の可能性はあったと思います。ベッテルの方が第2スティントが長いから、そのチャンスに賭けるしかなかったんです」(フェラーリ・浜島裕英エンジニア)

 アロンソは27周目まで粘ってからピットイン。つまり、第2スティントはベッテルよりも4周"若い"タイヤで勝負を挑むことになった。

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