エムバペになくてレバンドフスキにあるもの クラシコを「大差」にした「ストライカー」の有無
先日のエル・クラシコで、レアル・マドリードの"特級怪物"キリアン・エムバペは、世界を驚嘆させる大暴れを期待されながら、バルセロナを前に無得点に終わっている。実力を考えれば、お粗末なプレーだった。エースの一角である彼が不発だったことが、0-4という大敗を招いたとも言える。
「彼の日ではなかった」
スペイン大手スポーツ紙『マルカ』はマドリード寄りの論調だけに、そこまで厳しく書いていない。しかし、これが続けば戦犯として吊し上げるだろう。
「(ハンジ・)フリック(バルセロナ監督)の勝利、エムバペの落第」
スペイン大手スポーツ紙『アス』もマドリード系だが、有名コラムニストはすでに容赦がない。
クラシコでの先制ゴールを喜ぶロベルト・レバンドフスキ。手前はキリアン・エムバペ photo by David Ramos/Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る あらためて、なぜエムバペはノーゴールだったのか?
エムバペの才能に疑いの余地はない。それは過去の実績が証明している。パリ・サンジェルマン時代、ラ・リーガよりランクが下がるリーグ・アンながら、カップ戦を含めるとシーズン平均40点近くを叩き出してきた。ワールドカップではフランス代表の2大会連続決勝進出に大きく貢献している。
1対1から抜け出す時の馬力と技量の水準は、並ではない。平凡なディフェンスとの勝負では、誤解を恐れずに言えば、"サラブレッドと駄馬"のように映る。そしてフィニッシュの精度も、"リオネル・メッシ後"は世界屈指だ。
「現状で得点が増えない(リーグ戦第11節終了時点で6点)のは、マドリードに来たばかりだから。フィットするのに時間が必要」は正論だ。
しかし、ラ・リーガにおいてクラシコでの失態のインパクトは、想像以上である。そこで活躍できなければ、エースと認められない。たとえ、他で20点、30点を決める活躍をしたとしても、だ。
今回のクラシコで、エムバペはあまりにイージーにオフサイドトラップにかかっていた。なんと8回にも及んでいる。バルサが挑戦的ハイラインを敷いてきたのに対し、広大なスペースを走り抜けたが、ことごくタイミングが早く、オフサイドの罠にかかった。酷な言い方をすれば、あまりにイノセントだったと言える。
おそらくは気負いがあり、失敗に焦りが募ったのだろう。それは技術の狂いも生み、シュートも含めて空回りした。極度のストレスがかかっていたのか。
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著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。