三笘薫「先発完投型」スタイルで復活 今季開幕弾、相手の一発レッド誘発プレーも (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

 一方、その10分後に、この日2番目と言いたくなる痛快なプレーを見せたのは三笘だった。ルイス・ダンク(元イングランド代表)のロングフィードを、対峙するエバートン右SBヤングがカットとしたシーンだ。三笘はそのトラップの瞬間に狙いをつけて急接近すると、ボールをかっさらいドリブルで前進。するとヤングはたまらず三笘の腕を引っ張り、主審から一発レッドの判定を受けたのだった。三笘は試合を決定づける大きなプレーに能動的に関与した。

 試合結果は0-3。三笘の動きは尻上がりによくなっていった。プレー機会は前半よりも格段に増え、まさに代えにくい選手となっていた。昨季と同様である。前任のデ・ゼルビ監督は、そのまま最後まで三笘を出場させることが多かった。使い詰めではないかと日本人をやきもきさせるほどだったが、新任のハーツラー監督はさすがに代えた。ただし、ベンチに下げた時間は後半44分だった。

 前半は飛ばさずに抑えながら走り、後半勝負に懸けるマラソンランナーのようである。前半のプレー機会の少なさについて先述したが、それは三笘の気質と深い関係があると見る。

 アタッカーのプレータイムがいまや1試合平均約70分の時代を迎えているなかで、三笘は優に80分を超え、90分に限りなく近い時間までプレーする、まさに「先発完投型」だ。息切れ覚悟で飛ばすことは絶対にしない。終盤にいくほど活躍が期待できる、現代サッカーにおいては珍しい選手だ。

 ただ、強力なライバルが現れたときどうするか。最初から飛ばさざるを得ない環境下に置かれた時はどんなプレーを見せるか。もうワンランク上のチームでプレーする姿を見たいと考えるのは、筆者だけではないはずだ。

著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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