家本政明が審判目線で感じたカタールW杯の裏メッセージ。「11人対11人でなくなるとフットボールが変わってしまう」 (4ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko
  • photo by Getty Images

【「三笘の1ミリ」は、はっきりとラインにかかっていない映像がなかったという見方】

 もう一つ、テクノロジーが関わる判定で大きく話題になったのが、日本対スペインの決勝ゴールだと思います。堂安律選手のクロスが流れて、三笘薫選手が折り返して、田中碧選手が押し込んだシーンでした。

 三笘選手の折り返したボールがラインを割ったかに見えたところ、真上からの写真でタッチラインにギリギリかかっていたと、FIFA公式が写真付きで声明を出して世界中で話題になりました。

 プレーの流れのなかではわからなかったですが、リプレイを見て高い可能性でゴールが認められると思いました。それはボールがラインにかかっているというより、ラインから出たという印象を持たなかった、あるいは薄かったということです。

 あのシーンの主審によるオリジナルのディシジョンはゴールキックでした。つまりラインを割っていたと認識していました。それは全然構いません。ここでVARとして大事なのは、ラインを完全に割っている映像があるかです。

 見ている人は「ラインに何ミリかかかっている」という視点で見ていたと思いますが、VARは「はっきりとラインにかかっていない映像があるかどうか」の視点で見ています。最終的にそのかかっていない映像がなかったので「これははっきりと出ているとは言えない」という結論だったと思います。

 個人的にこのシーンで改めて思ったのは、ラインを出たか、出てないかというファクトの部分は、人間の目で正確に判断するのは不可能だということです。であるならば、ゴールラインテクノロジーを応用してすべてのタッチラインでも採用し、そこのジャッジはすべてセンサーに任せるべきだと思います。

 あれが1ミリなのか、1.88ミリなのか、今のテクノロジーであれば正確な数値を出せるはずです。FIFAが管理するテクノロジーによって、フットボールの魅力と価値を高める数値化はアリだと思います。

 3D映像で出ていなかったと見せるのもいいんですが、実際に何センチ、何ミリ出ていなかったというのは、みんな興味があると思うんです。ビジュアル的な印象だけでは、それぞれ感じ方も違うと思うんですけど、FIFAが公式として数字を出すことでみんなが納得するし、レフェリーもそれが一番ラクなわけです。

 オフサイドに関してもやり方はいろいろあると思うんですが、AI化させる話もあります。そうするともしかしたら主審、第4審判、VARは残るけど、副審はなくなるかもしれない。将来的にセンサーによって判定できるところはテクノロジーに任せて、反対に主審の判断が必要なところは完全に任せる。レフェリングの二極化というのはアリかなと思います。

家本政明 
いえもと・まさあき/1973年6月13日生まれ。広島県福山市出身。2002年からJ2、2004年からはJ1で主審を務め、2005年からはJFAのスペシャルレフェリーとなり国際審判員も務めた。2021年にJリーグの最多担当試合数を更新し、同年シーズンを最後にレフェリーを引退。現在はJリーグに入り、リーグの魅力向上の活動をするほか、さまざまなメディアに出演。レフェリー視点から語るサッカーが人気だ。

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