「サッカーの母国」のDNAを捨て近年好調のイングランド代表。カタールW杯で「自分たちらしさ」を取り戻せるか (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

基盤がはっきりしないままカタールW杯へ

 1970年代からイングランド代表がすっかり勝てなくなったのは、各国のGK、DFが体格や技術面でイングランドのハイクロスやロングボールに対抗できるようになり、逆に技術の優位が顕在化したからだと言われている。イングランドは激しさやハードワークが空回りし、独自路線が通用しなくなった。

 プレースタイルは主に合理性と嗜好性から成立する。イングランドは「母国」であり、自らの正当性を疑っておらず、嗜好性があまりにも強すぎた。自分たちのプレースタイルに合理性がなくなっていることに気づきながら、あえて目を背けるほどに。

 すっかり勝つための合理性がなくなったことを悟り、ようやく改革を始めて低迷期を脱したわけだが、あれほど執着したスタイルを断念したあと、それに代わるものが何かがわからなくなっているように見える。

 イングランド代表が低迷していた1970~80年代、クラブチームは逆にヨーロッパを席巻していた。リバプール、ノッティンガム・フォレスト、アストンビラがチャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)を独占。戦術的にはイングランド代表とほぼ同じ。違っていたのは選手の質である。

 この時期にリバプールを牽引したケニー・ダルグリッシュはスコットランド人だ。グレーム・スーネスもスコッランド、イラン・ラッシュはウェールズ、ジョン・オルドリッジはアイルランドと、イングランド以外の選手が含まれている。

 イングランド代表はイングランド協会籍の選手しかプレーできないが、クラブは英国選抜という違いがある。スコットランド色の強いリバプールには、伝統のショートパスとロングボールをミックスさせたバランスのよさがあった。

イングランド代表の主要メンバーイングランド代表の主要メンバーこの記事に関連する写真を見る 現在のイングランドにはワールドクラスのストライカーであるハリー・ケイン(トッテナム)やマンチェスター・シティの新進気鋭フィル・フォーデン、快足のラヒーム・スターリング(チェルシー)など、強豪クラブの名手たちがいる。

 ただ、強豪クラブほど世界選抜化しているので、イングランド人ばかりで構成されているわけではない。クラブの戦法は転用できない。しかし、代表として集まった時、かつて強烈にあったDNAはすでに失われている。

 基盤がはっきりしないまま合理性に従ってみると、スウェーデンなど北欧諸国の戦いぶりに似てきている。これはイングランド人監督が1980年代に根づかせたものだから相似性はある。そこにDNAの名残もあるわけだ。

 前回4位、2021年のユーロ2020は準優勝。イングランドらしさがわからなくなりつつも、結果は出してきた。近年の集大成となるカタールW杯では、勝つための合理性以外にも何かを残したいところだろう。

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