カタールW杯の密かな優勝候補? オランダが強いのは、代名詞「トータルフットボール」じゃないほうの時
注目チーム紹介/ナショナルチームの伝統と革新
第4回:オランダ
1974年のトータルフットボール
1974年西ドイツW杯で準優勝したオランダ代表は、世界に衝撃を与えた革命的なチームだった。「トータルフットボール」はこの時オランダの代名詞になった。
カタールW杯に臨むオランダ代表。欧州のネーションズリーグでは好調だこの記事に関連する写真を見る トータルフットボールという言葉自体は1970年代の流行語のようなもので、オランダ以外にも使われていた。たとえば西ドイツW杯の2年前のヨーロッパ選手権で優勝した西ドイツ代表も、トータルフットボールのチームだ。
メディアの造語なので、こうなればトータルフットボールだという定義はないのだが、1974年のオランダが決定版になってイメージは定着した。
この時のオランダは現代戦術の源流と言っていい。大きく2つの特徴がある。攻撃面のボールポゼッション、守備面のプレッシングだ。
フィールド上にバランスよく散開して足下から足下へ正確なパスを回しながら、ポジショニングをずらして優位性を出す。今日、ポジショナルプレーと呼ばれているものの先駆だった。
プレッシングのほうは、当時のリヌス・ミケルス監督が「ボール狩り」と命名していたものが原点となっている。
ミケルスが「ボール狩り」を考案したのは、アヤックスを率いていた時である。ボール支配力があり押し込めるチームだったので、攻守が切り替わった時にいちいち自陣まで戻る必要性を感じなかった。そこでボールを失った瞬間から、それぞれの前方にいる相手選手をマークする強度の高い守備戦術を機能させた。
全体に押し上げていく守り方なので、後方の人数不足を解消するためにオフサイドトラップを多用している。脱兎のごとく押し上げるオランダのDFに、相手チームの3、4人がまとめてオフサイドポジションに放置されるさまは、一種の衝撃映像と言っていい。あっけにとられてオフサイドになるFWたちは、オランダという時代の先駆者に置き去りにされて途方に暮れているように見えたものだ。
ボールポゼッションとハイプレスの循環というゲーム支配構造は、のちにジョゼップ・グアルディオラ監督率いるバルセロナがより完璧な形で再現。現在につながる戦術的な流れを作っている。
1 / 3