メッシは5回目のW杯でついに頂点に立つのか。今回のアルゼンチンは伝統を進化させ大エースをうまく使う新しいモデル (4ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by AFLO

「特別出演メッシ」のスタイル

 今年のカタールW杯は、メッシにとって5回目のワールドカップだ。まだ10代だったドイツW杯は別にして、その後の4大会はアルゼンチン代表のスーパーエースとして君臨してきた。

 最も優勝に近づいたのは2014年ブラジルW杯だ。当初は攻撃的なスタイルだったが、ノックアウトステージからはマラドーナがいた頃のチームを想起させた。結局のところ、アルゼンチンはメッシに頼ってきたわけだ。

 ただ、さすがに35歳になるメッシにすべてを託すわけにはいかない。しかし、それがちょうどいいバランスをもたらしているようにも見える。10人がハードワークしてメッシの一発に賭けるのは従来と同じようだが、そこまでメッシに頼れないこともわかっている。

 そこでメッシにすべてを任せるのではなく、基本は10人で戦って、メッシを強力なプラスアルファとして活用しようとしている。この違いはかなり微妙だけれども大きな差かもしれない。

 というのも、メッシ以外の選手でほぼ攻守が完結しているのだ。

アルゼンチン代表の主要メンバーアルゼンチン代表の主要メンバーこの記事に関連する写真を見る システムはオーソドックスな4-4-2で、2トップはメッシとラウタロ・マルティネスだ。メッシの守備負担や運動量の部分はエネルギッシュなラウタロが肩代わりしてくれる。

 そして9人のフィールドプレーヤーは球際に強く、奪ったボールをキープできるキレのある技術を持つ。CBのオタメンディが前に出るなどマンツーマン的な対応もあり、背中を向けた相手にはガツガツと足を出す。

 攻守に渡る対人の強さという伝統が発揮されていて、高い位置でもボールをとれるので、固められた守備を崩す手間がある程度省けている。そしてこのゲーム展開にメッシはほぼ出てこない。最後のところで登場して決定的な仕事をするだけだ。

 メッシに何とかしてくれと頼る従来型との違いだ。エキストラなパワーとして加える。だから印象としてはFCメッシにはなっていない。主演メッシではなく、特別出演メッシという感じなのだ。選手寿命が延びて、エースが高齢化した時代の新しいモデルとも言える。

 ベースは球際の強さと局地戦の巧みなテクニック。ビエルサ後継型と言うには土着性の強いイメージなのだが、アルゼンチンらしい底力が期待できそうだ。

4 / 4

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る