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2003年、アブラモビッチが
チェルシーを買収した本当の理由

  • ジェームス・モンターギュ●取材・文 text by James Montague 井川洋一●訳 translation by Yoichi Igawa

フットボール・オーナーズファイル(1)

 昨夏、『The Billionaires Club - The Unstoppable Rise of Football's Super-rich Owners』と題された意欲作がイギリスで出版された(今年4月にリリースされた日本語版は『億万長者サッカークラブ サッカー界を支配する狂気のマネーゲーム』田邊雅之訳 カンゼン)

『フィナンシャル・タイムズ』紙が「ピッチ外の情勢に興味のある多くのフットボールファンが、すっかり引き込まれてしまう本だ」と評したこの本は、現在のトップクラブのオーナーたちの横顔を紹介しながら、彼らが天文学的な金額を投じてクラブを買った動機に迫っている。

 今回、著者である記者のジェームス・モンターギュ氏が、連載形式でスポルティーバに寄稿する。第1回は、ビリオネアとフットボールが密接に結びつく流れを作った人物、ロマン・アブラモビッチだ。

チェルシーのオーナーを務めるロマン・アブラモビッチ photo by AFP/AFLOチェルシーのオーナーを務めるロマン・アブラモビッチ photo by AFP/AFLOロマン・アブラモビッチ/チェルシー

 ロマン・アルカディエビチ・アブラモビッチ。このロシア人の富豪が2003年にプレミアリーグのチェルシーを買収したとき、ロシア国外に彼の素性を知る者はほとんどいなかった。公の場でシャイな笑顔を見せる若きビリオネアは当時、ロシア最北東端の凍(い)てつく自治管区の知事を務めており、それまでに石油や天然ガスで莫大な資産を築いていた。

 のちにBBCのインタビューに応じ、フットボールクラブを買おうと思った動機を「日々に飽きていたし、新たな挑戦を求めていたからだ」と語っている。それは額面どおりに受けとれるものだろうか。

 アブラモビッチには、チェルシー以外にも選択肢があった。フットボール界で大きな力を持つイスラエル人のスーパーエージェント、ピニ・ザハビに相談を持ちかけると、ポーツマスやマンチェスター・ユナイテッドなどを提案されたという。

 そして、チェルシーにも可能性があると教えられると、彼はそこに利点を見出した。ブルーズ(チェルシーの愛称)が本拠とするロンドンには、ロシア人の裕福なエリートたちのコミュニティがあり、彼もそこに豪奢(ごうしゃ)な住居を保有している。そしてなにより、当時のチェルシーの財政は目も当てられないほどひどい状況にあった。

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