名将ミシャは何を残したのか Jクラブを率いて19年 勝ち負けを超えて伝えた「信念」
12月1日、広島。北海道コンサドーレ札幌を率いるミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、試合後の記者会見で喋り続けていた。かつて率いていたサンフレッチェ広島に敗れたあとだったが、すでに前日に降格という決着はついていたし、退任も決まっていた。スタジアムでは青山敏弘の引退セレモニーが続いていた。
「(札幌の)監督の仕事を7年間やってきて、『札幌らしい』と言われるサッカーを見せられるようになりました。代名詞と言われるようなサッカーを」
ミシャという愛称で呼ばれるペトロヴィッチ監督は、そう言って壇上で胸を張った。
「6シーズンは残留してきて、今シーズンは果たすことできませんでした。難しいシーズンになりましたが、多くの人にサポートされるなか、監督である私だけが期待に応えることができなかったと思います。降格の責任は、すべて私にあるもので......来シーズン、私はいませんが、クラブは毎年の積み重ねで成長できているので、再びJ1に昇格できるはずです」
ミシャはそう言って、札幌の監督としての幕を引いた。名将ミシャが残した札幌らしさとは?
柏レイソル戦後、サポーターとタッチをかわすミハイロ・ペトロヴィッチ監督(北海道コンサドーレ札幌) photo by Kyodo newsこの記事に関連する写真を見る 12月8日のJ1最終節、札幌は本拠地に柏レイソルを迎えている。ミシャにとっては札幌でのラストマッチ。1-0と快勝を収めた。
ミシャ札幌らしさ全開だった。
前半5分の中盤での攻防。信奉してきたマンツーマンで局面を制する。馬場晴也がスライディングで相手ボールを刈り取って、前線の鈴木武蔵につける。鈴木が落としたボールを受けた駒井善成が右サイドを持ち上がり、斜めに走ってきた浅野雄也に入れる。浅野はダイレクトで鈴木へ。その間、"第3の選手"として裏を取った近藤友喜がパスを呼び込み、相手GKまでかわしてゴールを決めた。
1対1での強度、トランジションの速さと精度、相手を幻惑、撹乱するランニング。それらをミックスし、見事なコンビネーションゴールを決めた。これぞ、ミシャ札幌だった。何度も、何度も、トレーニングで重ねた動きの成果だろう。だからこその、阿吽の呼吸だった。それぞれのイメージを共有した得点は、まさにサッカーの醍醐味だ。
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著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。