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ヴィッセル神戸・武藤嘉紀の涙 J1優勝の立役者はクラブに残るのか...32歳の決断はいかに

  • 戸塚 啓●取材・文 text by Totsuka Kei

 試合はまだ終わっていなかった。

 それなのに、ヴィッセル神戸の武藤嘉紀は涙をこぼした。

 12月7日に行なわれたJ1リーグ最終節の70分、ヴィッセルの扇原貴宏が豪快な左足ミドルを突き刺す。湘南ベルマーレとのホームゲームは、これで3-0だ。リーグ優勝と連覇を、大きく手繰り寄せた瞬間だった。

ゴールを決めてジャンプして喜ぶ武藤嘉紀 photo by Ushijima Hisatoゴールを決めてジャンプして喜ぶ武藤嘉紀 photo by Ushijima Hisatoこの記事に関連する写真を見る「3点目が決まった瞬間は、正直、何かホッとして、勝手に涙が出てきてしまったんですけど。何て言うのかな、この一週間は人生で一番長い1週間だと感じました。

 夜、優勝を逃す悪夢を見て、起きてホッとするというのが2、3回続いて、ホントにメンタル的にかなりこたえていたんじゃないかなっていう。それぐらい今日は大きな試合だと自覚していたし、だからこそ、勝った喜びはホントに計り知れない」

 武藤自身は1-0でリードした43分に、チームの2点目をマークしている。GK前川薫也が前線へ蹴り出したボールを大迫勇也が競り勝ち、佐々木大樹がペナルティエリア内左でGKとDFラインの間を取り、ゴール前中央の武藤へとつなぐ。相手GKが飛び出してがら空きとなったゴールへ、背番号11は冷静に流し込んだ。

「2点目の重要性はわかっていたので、貴重な得点を決めることができてうれしいですね」

 26分の先制点にも、武藤は関わっている。右サイドの酒井高徳からのクロスを、DFに競り勝ってヘディングで合わせる。相手GKが弾いて左ポストを叩いたボールを、宮代大聖が難なくプッシュしたのだった。

 さらに言えば、「湘南に勝てば自力で優勝」という状況を作り出したのも武藤である。J1残留を争う柏レイソルとアウェーで対戦した前節で、後半アディショナルタイムにゴールを決めてチームに勝ち点1をもたらした。この試合に引分けたことで、2位のサンフレッチェ広島に勝ち点1差をつけて最終節を迎えたのである。

「降格ギリギリの相手で、かつアウェーで、レイソル戦は本当に難しさがありました。最初に失点してしまってそこから守られて、こじ開けるのにかなりの時間を要してしまって。けれど、あの1点が自力優勝に大きくプラスになりましたし、2位、3位のチームにかなりのプレッシャーを与えられたと思うので。そこは非常に大きかったです」

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著者プロフィール

  • 戸塚 啓

    戸塚 啓 (とつか・けい)

    スポーツライター。 1968年生まれ、神奈川県出身。法政大学法学部卒。サッカー専誌記者を経てフリーに。サッカーワールドカップは1998年より7大会連続取材。サッカーJ2大宮アルディージャオフィシャルライター、ラグビーリーグワン東芝ブレイブルーパス東京契約ライター。近著に『JFAの挑戦-コロナと戦う日本サッカー』(小学館)

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