Jリーグ終盤の大一番で露わになった「仕切りの悪さ」 試合の残り時間がわからない
連載第17回
杉山茂樹の「看過できない」
ヴィッセル神戸が勝利すれば優勝に大きく前進、柏レイソルが勝てばJ1残留が決まる。11月30日に行なわれた柏対神戸は、今季のJ1リーグの総決算とも言うべき重要な一戦だった。
試合の模様は放映権契約を締結しているDAZNのみならずNHK総合でも生中継された。NHKがBSではなく地上波で放送したことからも、この試合の重要性がうかがい知れた。
試合は開始5分に柏が先制。1-0のまま後半アディショナルタイムに入ろうとしていた。このタイミングでひとつ目の問題が起きた。
後半43分。柏のDFジエゴが、神戸の右ウイング武藤嘉紀と空中戦を争った際、肘で相手の顔面を突いた。VARの結果、判定はイエローで神戸にPKが与えられた。ジエゴは前半にも肘打ちの反則を犯して警告を受けていたので、この瞬間、退場となった。
ところがキッカー大迫勇也は、この大事なPKをこともあろうに枠外へと吹かしてしまう。
この間、約7分。気がつけば時間は後半50分に迫ろうとしていた。ところがDAZNの画面にも、NHKの画面にも、アディショナルタイムは表示されていない。残り時間がわからないのだ。観戦に最も不可欠な情報を得られぬまま、テレビ視聴者は観戦を余儀なくされた。最終盤に開催された大一番なのに、である。
実況はDAZNもNHKも戸惑っていた。NHKではピッチレポーター役のアナウンサーが、「審判から残りは2分だとベンチに伝えられたようです」と、独自で得た情報を紹介していたが、切羽詰まった最終盤の攻防にアナログ情報は不似合いだ。視聴者が欲しているのは、時の経過を刻々と正確に刻むデジタル式の情報である。
この間、第4審判による残り時間の掲示はなかった。実況席はもちろん、スタンドのファンにも知らされていなかったのだ。VAR、退場、PK、選手交代など、ドタバタしている間に時間が経過していったことは確かだが、重要な情報が放送局や観戦者に共有されない理由は何なのか。
DAZNの画面にアディショナルタイムが表示されたのは、後半54分まで進んだ時だった。45分+13分。つまり残り時間はその時点で4分あった。
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著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。