17年の現役生活に幕。いま北嶋秀朗の胸に去来するもの

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 松岡健三郎/アフロ●写真

 2013年12月10日、新横浜。連日、テレビなど各メディアへの出演や取材で多忙を極めていた男は、焼き肉屋のテーブルにつくと、一つ息をついた。ランチタイムは終了間近、午後2時半をまわっていた。朝から千葉でテレビの収録をした後、Jリーグアウォーズに出席するために電車を乗り継いで来たところだった。慣れない革靴を履き、髪型を整え、エレガントな服に身を包む。人前に出る職業であることは現役時代と変わらない。

 しかし働くべき場所は、もうピッチの上ではなかった。

「日頃の生活の中で、自分は"風邪っぽいな"とか"膝が痛いな"とか"動いていなくて太ったかな"と、気をつけていたんです。それが選手じゃないわけだから、そこまで気にする必要はなくなった。そう自分に言い聞かせるとき、引退した実感がありますね。その寂しさはありますよ」

10月20日のジェフ千葉対ロアッソ熊本戦後、千葉のファンに挨拶をする北嶋秀朗10月20日のジェフ千葉対ロアッソ熊本戦後、千葉のファンに挨拶をする北嶋秀朗 北嶋秀朗は、その心情を吐露している。J1柏レイソルで失望も栄光も経験し、その度に闘う姿を見せた男は、J2のロアッソ熊本で、17シーズンの長い選手生活を終えた。実感のなかった引退という事実を、元日本代表FWは年の暮れに少しずつ噛み締めていた。

「テレビに出演して話をするっていうことが、どれだけ難しいのか分かりましたね」

 注文したハラミ御膳を受け取った彼は、網が熱くならないうちに肉をのせ、しきりに裏返した。

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