サッカー日本代表のバーレーン戦勝利を「決めた」上田綺世の「ストライカーの流儀」
今シーズン、スペインではバルセロナが目覚ましい攻撃力で開幕4連勝を飾っている。
バルサは、下部組織ラ・マシアから育った"ボールプレーに優れた選手"を数多く擁する。ラミン・ヤマルの技巧×スピードはほとんど超人的で、フェルミン・ロペス、マルク・カサド、マルク・ベルナルの戦術眼は出色。ダニ・オルモの技術は「魔術師」のレベルで、パウ・クバルシはセンターバックの域を超えたパス出しを見せる。
「スペクタクルの美学」
それがバルサの土台にあるのは間違いない。
しかし、最強の攻撃力を完結させるには、やはりストライカーが求められる。過去を振り返っても、フリスト・ストイチコフ、ロマーリオ、サミュエル・エトー、ダビド・ビジャ、そしてルイス・スアレスなどを外から連れてきた。それはリオネル・メッシのような怪物がいた時代も変わらない。
ストライカーは「育てられない」特別なポジションなのだ。
現在、その仕事を担うのは、ポーランド代表ロベルト・レバンドフスキである。レバンドフスキは36歳で、かつての俊敏性や活動量はない。バルサの俊敏な選手たちと比べれば技量も劣る。しかし、ストライカーの嗅覚と経験は健在で、ここまで4得点を記録。たとえこぼれたボールでも、ゴールに叩き込むのは簡単ではない。"ゴールの異能"は周りが何かを補っても、生かすべきものなのだ。
日本代表の上田綺世(26歳、フェイエノールト)は、バルサにおけるレバンドフスキと重なるところがあるかもしれない。
バーレーン戦で2ゴールを決めた上田綺世 photo by Fujita Masatoこの記事に関連する写真を見る 9月10日、2026年W杯アジア最終予選のバーレーン戦で、上田は2得点を記録している。
ひとつ目は先制点だった。レーザーポインターを顔に照射されながら、少しも動揺していない。任されたPKを豪快に決めた。ふたつ目は、後半立ち上がりだった。味方がつなげたボールに、最後は伊東純也のパスに少し下がりながらコントロールし、右足を振り抜いた。
上田は「点を取る」という、最も単純で、最も難しい仕事をやり遂げている。ストライカーとしての剛毅さを身に纏う。その域に達している選手は多くはない。
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著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。