古川遼のソフトバンク入団辞退に見る育成制度の功罪 アマチュア指導者、スカウトたちが語る本音
絶滅危惧種の「ガラケー」使用者は、スマホと違って新たな情報のキャッチが遅れがちになる。今回のソフトバンク育成ドラフト1位選手の入団辞退についても、まずメディアの方たちからの連絡で知ることになった。
入団を辞退したのは、日本学園高の投手・古川遼。
「プロ志望届」という制度が始まってから、「指名されたのに入団しない......」というのは極めて珍しいことだから、少なからず驚きを持って報じられたようだが、むしろこうしたケースが毎年3、4人現れても不思議ではないと、以前から考えていた。
今年のドラフトで支配下で6人、育成で13人の選手を指名したソフトバンク photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る
【支配下指名と育成指名の格差】
支配下ドラフトで指名された選手たちが、億から数千万円の契約金と1000万円前後の年俸でプロ球団に迎えられる一方で、育成ドラフトで指名された選手たちは300万円前後の支度金と年俸でプロに進む。「招かざる客」とまでは言わなくても、契約の条件から「ウェルカム感」は伝わってこない。
支度金といっても、寮への引っ越し代と家財道具を購入すればなくなってしまう金額だし、その程度の年俸では、税金、寮費、用具代と引かれたら、手取りは10万円ちょっとくらいだろう。
そんな"現実"がわかっていれば、「いくらなんでも......」と、本人も家族も気持ちが揺れて当然のはず。むしろ、そのほうが正常な感覚ではないかとずっと思っていた。
育成ドラフトと育成選手──これが制度化されてもう20年近くになるが、当初は野球選手として最後の勝負をかける独立リーグの選手や、社会人野球とご縁を結べなかった大学の選手たちの貴重な登竜門として機能していたように見えた。
それがいつの間にか、将来性豊かな高校生を"格安"で採用する制度......というよりも、プロ側の都合のいい"方便"にすり替えられているように思えてならない。本来、制度や法律というものは、それに関わる人がよくなるために存在するはずなのに、「育成制度」については雇用する側だけの"利"だけが目立って仕方がない。
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著者プロフィール
安倍昌彦 (あべ・まさひこ)
1955年、宮城県生まれ。早稲田大学高等学院野球部から、早稲田大学でも野球部に所属。雑誌『野球小僧』で「流しのブルペンキャッチャー」としてドラフト候補投手のボールを受ける活動を始める。著書に『スカウト』(日刊スポーツ出版社)『流しのブルペンキャッチャーの旅』(白夜書房)『若者が育つということ 監督と大学野球』(日刊スポーツ出版社)など。